消費増税を機に、日本ではモバイル決済ができる店舗が増加してきました。政府は日本におけるキャッシュレス決済の普及率の上昇をめざしていますが、世界各国と比べるとまだ現金利用が多いというのが実情です。
特にモバイル決済の普及している国として雄目なのが中国です。中国ではモバイル決済に存在感があります。その普及率の高さから、日本でも訪日中国人を誘致するためにモバイル決済を導入する店舗も多くみられています。
本記事では、中国のモバイル決済の市場規模や、普及した理由、中国の代表的なモバイル決済手段である「アリペイ(Alipay/支付宝):以下アリペイ」と「WeChat Pay(微信支付)以下:WeChat Pay」について紹介します。
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中国はモバイル決済先進国
中国では現在、モバイル決済が支払い時の基本になっています。
現金のおつりがない店もあり、モバイル決済の存在は中国ではとても大きいものとなっています。
ここでは、中国のモバイル決済市場の規模や、モバイル決済が急速に普及した理由について紹介します。
モバイル決済とは
モバイル決済とは、スマートフォンやタブレット端末などのモバイル端末を使った電子決済サービスのことをいいます。
モバイル決済と一言にしてもそのタイプには4種類あり、専用のカードリーダーを接続して決済するもの、専用端末にモバイル端末をかざして決済するもの、スマホアプリを通して決済するもの、そしてスマホのキャリアサービス(ドコモやau、ソフトバンクのユーザー向け)を利用して決済するものがあります。
このなかで中国で普及しているのは、スマホアプリを通して決済する=モバイル端末に表示したQRコードやバーコードをPOSシステムに読み取って決済する方法です。
QR・バーコード決済とは?キャッシュレス経済とモバイル決済・導入する前に確認すべき基本・中国のAlipayとWeChat
キャッシュレス決済の導入は世界各国で進んでいます。一般社団法人キャッシュレス推進協議会によると、2016年時点の韓国での普及率は96.4%、イギリスが68.6%、中国は65.8%でした。また、オーストラリアやカナダ、スウェーデンの普及率も50%以上で、今後ますます浸透していく見込みです。一方で、日本での普及率は19.9%と他国と比較して低く、経済産業省は2027年までに普及率を40%以上に引き上げる方針を発表しました。キャッシュレス決済の中でもQRコードを用いたQR決済が注目を浴びています...
中国のモバイル決済利用者数は世界トップレベル
中国の多くの都市部では、現金よりもモバイル決済が頻繁に使われています。コンビニでもスーパーでも、モバイル決済を利用する人の方が多いという光景は珍しくありません。
JETRO(日本貿易振興機関)によると、中国でのモバイル決済利用者は、2016年6月は4億2,445万人でしたが、2019年6月には6億2,127万人まで拡大しました。これは、中国のスマートフォンユーザー全体の73.4%を占めています。中国では、ネットユーザーの99%がスマートフォンを利用しています。(2020年3月時点)
また中国のリサーチ会社iiMedia Researchの調査によると、中国でのモバイル決済の消費額は、消費全体の65%を占めています。
2位のイギリスの23%との差をみても、中国のモバイル決済利用者数は全世界的にみてもトップレベルといえるでしょう。
なぜ中国でモバイル決済が普及したのか?
中国でモバイル決済が普及した要因として、中国での偽札の横行、スマートフォンの急速な普及や中国政府による規制緩和が指摘されています。
また、モバイル決済の高い利便性も、普及がすすんだ理由のひとつです。今では、ホテルやレストラン、カーシェアなどの予約を、検索から決済までアリペイやWeChat上で一貫して完結できるようになっています。
WeChat Payは、中国最大のメッセージアプリであるWeChatと連携しているため、WeChat 上の友人間でお金を送金でき、スムーズに割り勘ができます。
このように、中国におけるモバイル決済は、便利な生活や人びとのコミュニケーションに欠かせないものとなっています。
中国のモバイル決済アプリ2強:アリペイ & WeChat Pay
中国のモバイル決済市場で多く利用されているのは、アリババの関連会社が提供するアリペイと、テンセントの提供するWeChat Payです。
この2社によって中国のモバイル決済市場の9割が占められています。
ここでは、各社の特徴や中国人の2つのサービスの使い分けについて紹介します。
アリババ、テンセント2社で中国市場の9割を独占
中国のモバイル決済市場では、アリババの関連会社が提供する「アリペイ(Alipay/支付宝)」とテンセントが提供する「WeChat Pay(微信支付)」が二大勢力となっています。
モバイル決済時に必要となるQRコード決済を最初に採用したのはアリペイで、当初はアリペイが市場を独占していました。
しかしその後、WeChat Payがキャンペーンやイベントを通して利用者数を増やし、現在ではアリペイとWeChat Pay、また同じくテンセントが提供するQQウォレットで中国のモバイル決済市場の約9割を占めています。
後発のWeChat Pay、お年玉サービスでシェアを伸ばす
WeChat Payとは、中国最大のチャットアプリ「WeChat(微信)」に決済機能をつけたものです。
WeChatのもつ膨大なユーザー数をを利用し、WeChat Payは、2014年の春節に、WeChat上の友人にお年玉を送れる「微信紅包」というサービスを提供しました。
「紅包(ホンバオ)」とは、春節に配るお年玉や、結婚式などの御祝儀のことです。
このサービスは、1回に送る「紅包(ホンバオ)」の額をランダムで決められるゲーム性や、中国の伝統的な慣習を取り入れていることから、WeChatユーザーの間で大きな人気を博し、WeChat Payの普及に大きな影響を与えました。
「オンライン・高額」はアリペイ、「オフライン・少額」はWeChat Pay
中国人は、アリペイとWeChat Payを場面によって使い分ける人が多いといわれています。実際に中国社会では、ネットショッピングなどのオンラインではアリペイを使用し、飲食店などにおける対面の支払いにはWeChat Payを使用することが少なくありません。
アリペイを運営するのはアリババの関連会社であるアント・フィナンシャルですが、アリババは中国EC最大手の「タオバオ(淘宝)」を運営しています。タオバオでは基本的にアリペイで支払いをします。
アリペイには、支払いの履歴に応じて優遇を受けられるシステムもあるため、これを狙って支払いをアリペイに集約するユーザーもいます。
WeChat Payは、中国人の生活と密接に結びつくWeChatに紐づくシステムです。
アリババ系列以外のECや、レストランの注文でも使われているWeChat内のミニプログラムでサービスを利用するとき、また友人への送金といったシーンで活用されています。
芝麻信用(ジーマ信用)とは
芝麻信用(ジーマ信用)は、中国の企業アリババグループの関連企業であるアントフィナンシャルが開発、提供する個人信用評価システムです。中国発の大手決済サービスAlipay(アリペイ)の一機能で、ユーザーの行動履歴から信用度のスコアを算出します。このような、個人の信用を金融口座の情報以外でスコアリングするサービスは日本ではあまり浸透していません。一方、中国ではさまざまな場で信用スコアが利用されています。その中でも、Alipayが国内で広く浸透している中国では、芝麻進用の普及による社会的な影響も観...
モバイル決済の利用シーン拡大、中国人向けインバウンド対策には不可欠
中国ではモバイル決済が主流であることから、モバイル決済が利用できるかどうかが、訪日中国人を集客するのに大きなカギとなります。
ここでは、日本でのモバイル決済の現状や、インバウンド対策のためにモバイル決済を導入する方法について紹介します。
資産運用やクロスボーダー決済の利用が拡大
中国決済清算協会が実施したアンケート調査によると、2017年までは「生活用品の購入」を目的としたモバイル決済が主流であったのが、2018年に「資産運用」(99.1%)のための利用が「生活用品の購入」(97.2%)を上回りました。
この背景には「芝麻信用」という信用評価ツールの普及が関係しています。芝麻信用には、後払い時の代金回収リスクの軽減やローン借り入れ時の保証への役割もあり、モバイル端末で簡単にファンド購入ができるようになりました。
またテンセントは、WeChat Payにおける決済を、日本円や米国ドルなど人民元以外の通貨で行えるようにし、異なる通貨圏をまたぐクロスボーダーモバイル決済に注力しています。
訪日中国人向けモバイル決済への対応
日本では新型コロナウイルスの感染拡大以前、増加する訪日中国人旅客のニーズに応じて多くの店舗でアリペイの導入が実施され、日本での加盟店数は、2019年5月時点で30万店に達しています。
アリペイはPayPayと、WeChat PayはLINE Payと同じシステムで対応ができるため、中国モバイル決済のこれらロゴを掲出している店舗も少なくありません。
アリペイやWeChat PayのQRコード決済への対応は簡単であり、スマホやタブレットを用意し、書類申請して専用アプリをインストールするだけで済みます。初期費用や月額費用は無料で、諸経費は決済手数料のみとなっています。
顧客が提示したQRコードを決済端末で読み取れば決済完了となります。
2019年には、日本でも消費増税を追い風に「キャッシュレス還元」といった政府施策が打ち出され、PayPayやメルペイなど日本発のモバイル決済の普及が加速しました。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、人との接触を減らすなど「新しい生活様式」が求められているなかで、今後さらに日本のモバイル決済の利用は拡大していくでしょう。
こうした傾向は、今後の各種店舗での中国向けモバイル決済環境の普及を後押しすると考えられます。
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中国ではモバイル決済が広く普及、中国人向けインバウンド対策では対応が求められる
中国ではスマホやアプリの普及を背景に、QRコードの掲出だけで個人商店でも簡単に取り入れられること、様々な支払いに対応しているといった利便性の高さなどの要因から、モバイル決済が普及しました。
日本でも2010年後半から、複数のモバイル決済が登場していました。現在はPayPayとLINE Payに集約されつつありますが、支払い可能な領域が中国よりも限定的であったり、利用に抵抗感を持つ人も少なくないようです。
中国人にとってモバイル決済は日常生活の一部です。日本でもモバイル決済を利用して買い物がしたいと考える訪日中国人も少なくありません。日本人向けにモバイル決済を導入するのと並行し、中国で普及するモバイル決済会社を導入してみるのも訪日中国人のインバウンド対策のひとつとなります。
アリペイは中国で9億人以上のユーザーを有するだけでなく、グローバルパートナーを含むアジア全体で10億人以上に利用されています。旅行先の海外でもスムーズに利用できることは、中国人やその他の国のモバイル決済ユーザーにとって、ますます常識となっていくと考えられます。インバウンド市場における地方誘致や消費額の向上にも貢献するサービスとなっていくかもしれません。
<参照>
JETRO:社会に変革をもたらすモバイル決済(中国)
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