2020年7月22日から、東京都を除外する形ながら「Go Toトラベルキャンペーン」が始まりましたが、新型コロナウイルスの感染が全国的に拡大傾向にある中での開始に、賛否の論議が湧き上がっています。
そうした状況の中、7月29日の定例会見において、菅官房長官が改めてGo Toトラベルに対する理解を深める意味も含めて「ワーケーション」の普及に言及したことで、一気にこの言葉に注目が集まりました。
そこで本記事では、ワーケーションの詳しい中身やそのメリット、デメリット、さらに今後の課題について詳しく解説します。
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ワ―ケーションとは
現在、「ワーケーション」という言葉だけが先行し、ひとり歩きをしている感が拭えません。
実際にはどのような背景の中で誕生し、どのように発展してきたのか気になるところです。
そこで本章では、ワーケーションの詳しい中身や誕生した背景、そしてなぜ今、ワーケーションの普及が叫ばれているのかについて詳しく紹介します。
ワ―ケーションとは
ワーケーション(Worcation)という言葉は、実は造語です。「ワーク(Work)」と「バケーション(Vacation)」、つまり仕事と休暇という2つの相反する言葉を組み合わせたもので、その意味するところはズバリ、「働きながら休暇を取る」ことです。
ワーケーションに限らず、会社に出社せずに働くスタイルとしては、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下において日本でもようやく本格的な導入が始まった「リモートワーク」があります。
リモートワークは、基本的に出社こそしないものの、家をオフィス代わりにして働くスタイルです。
一方、ワーケーションは、そこをさらに一歩踏み込んで、海辺や温泉といったリゾート地で休暇を楽しみながらリモートワークを行う労働形態を指します。
ワ―ケーションの背景
ワーケーション誕生の歴史は、2000年代のアメリカに遡ります。意外な印象がありますが、アメリカは先進国のなかで唯一、年次有給休暇を取得する権利が法律で保障されていない国です。過度の競争社会の中、休暇を取ることでポジションを失うことを危惧する労働者も多くいました。
それらが要因となり、旅行サイト「エクスペディア・ジャパン」が発表した「世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018」によると、有給休暇取得率は71%でした。調査対象となった19か国の内でワースト2位となっています(ちなみに最下位は日本の50%です)。
そうした背景の中で、休暇を取得することに対する不安を取り除き、有給休暇を取りやすい環境を整えることを目的に誕生したのがワーケーションです。
当初はいわゆるWi-Fiとパソコンがあれば場所を問わずに働くことが可能なフリーランスのノマドワーカーが活用するに留まっていました。しかし、2010年代前半に欧米の主要メディアが新しいワークスタイルとして相次いで報道をしたことがきっかけとなり、急速にその認知度が高まりました。
ワ―ケーションが注目されている理由
今回の日本におけるワーケーション導入の動きは、冒頭でも触れたように、新型コロナウイルスによる深刻な経済的ダメージを回復させることを目的とした政治主導の側面が強いのが実情です。
観光庁は、2016年に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」における成長戦略の一環として、2020年には訪日客数を4,000万人に、2030年には6,000万人にするという目標を掲げ、その後実際にインバウンド需要は順調な伸びをみせていました。
ところが新型コロナウイルスによる影響が世界的に深刻化して各国が国境を閉ざしたことで、日本でも観光産業がまさに壊滅的な影響を受けました。
国際間の人の行き来がいつ頃再開されるのか先が見通せない中、落ち込んだ観光需要を回復させる切り札はもはや国内旅行の活性化しかない状況です。そこで政府が提唱し始めたのがワーケーションであり、現在はその目新しさもあり、大きな注目を集めています。
ワ―ケーションのメリット、デメリット
ビーチサイドのパラソルの下で仕事をこなし、働き疲れたら温泉に入ってゆっくり疲れを癒すと聞くと、夢のような働き方に思えるワーケーションですが、やはりそこにはメリットだけではなく、デメリットも存在します。
ここではワーケーションが抱えるメリット、デメリットについて詳しく検証します。
ワ―ケーションのメリット
ワーケーションのメリットは、おもに次の3点が挙げられます。
1.長期休暇が取得しやすくなる
先ほど、ワーケーションが、アメリカの低い有給休暇取得率を背景に誕生したことに触れました。休暇中でも仕事をこなすことができれば、長期休暇を取得することで自分のポジションを失う不安や、休暇を取得する罪悪感から解放され、特に長期休暇の取得率の向上が期待できます。
2.ワークライフバランスの実現
近年の働き方改革において、ワークライフバランスの向上は大きなテーマとなっています。ワーケーションの導入により、良質なワークライフバランスが実現できれば、離職者を減らせるだけではなく、労働環境の整った企業としてアピールでき、新規採用もしやすくなる効果が期待できます。
3.労働生産性の向上
日本は労働時間と比較して労働生産性が低いことは、以前から度々指摘されています。ワーケーションの導入により自分でオンとオフのメリハリをつけることが可能になると、短時間で仕事に集中するため、かえって効率的に業務をこなせることが期待されています。
ワ―ケーションのデメリット
一方、ワーケーションのデメリットには、次の3点が挙げられます。
1.導入・運用コストがかかる
ワーケーションの実現には、モバイルタイプのパソコンと通信環境の整備が必須です。さらにはオンライン会議やチャットのためのソフトウェアを導入する必要もあり、導入・運用をするためにはある程度のコストがかかります。
2.セキュリティに対する懸念
ワーケーションだけではなく、リモートワークにおいても大きな問題点として指摘されているのが、情報セキュリティの問題です。
Wi-Fiなどを利用して業務を行う場合、100%情報漏洩が防げる保証はありません。個人情報や社内極秘情報の管理、さらには端末の盗難リスクを含め、どのようにセキュリティを徹底させるのかは、ワーケーション導入の最大の課題です。
3.労働時間の管理
仕事と休暇を両立させるワーケーションでは、従来型の退勤管理の方法では通用しない部分がどうしても出てきます。
徹底した成果主義にシフトし、労働時間は不問にするといった大胆な方向転換や、新たな退勤管理のシステムを作り上げるなどの必要性が出てきます。労働時間管理をどのように行うかは、ワーケーションを導入する上で、企業にとってはセキュリティ管理同様に大きな課題です。
国内のワーケーションの事例
日本企業の中にも、昨今のようにワーケーションが注目を集める前からすでに自社で働き方の1つとして取り組みを始めていたり、ワーケーション向けのサービスを提供している企業があります。
ここではそうした先行事例を紹介します。
ワーケーション導入事例:JAL
2010年に経営破たんした日本航空株式会社(JAL)は、その後会社の立て直しを図る中、社内の働き方改革にも着手しました。休暇取得促進策の1つとして2017年からワーケーション制度を導入しています。
同社のワーケーション制度の対象となるのは、パイロットやキャビンアテンダントなど一部職種を除く社員です。あらかじめ長期休暇の予定に合わせて仕事をする「長期休暇タイプ」と、緊急の仕事が入ったときに旅行先でテレワークを行う「緊急対応タイプ」の2つのスタイルがあります。
さらに同社はワーケーションの広がりで恩恵がある企業であることから、自社内への導入だけではなく、外部の組織と連携し、ワーケーション導入の実証実験も行っています。
国内では鹿児島県徳之島町と組んでワーケーションの実証実験を行っているほか、「MINDS(Millennial Innovation for the Next Diverse Society)」に参画してハワイでのワーケーションの実証実験を行うなど、幅広く活動しています。
ワーケーション受け入れ事例:星野リゾート
Wi-Fiがつながる環境や仕事をするためのデスクなど、ワーケーションは一定の環境をクリアしないと実践が難しい側面があります。
そこで、「リゾート地でテレワーク」をコンセプトにした宿泊プランを提供しているのが「星野リゾート」です。
現在、このプランの設定があるのは同社が運営する「星のや竹富島」、「磐梯山温泉ホテル」、「軽井沢星野エリア」です。
「星のや竹富島」はWi-Fi環境の整った一軒家に滞在するタイプ、「磐梯山温泉ホテル」は客室以外にパブリックスペースもワークスペースとして利用可能なタイプです。そして「軽井沢星野エリア」では「温泉ワーケーションプラン」を提供しており、ワーケーションをサポートするための用具のレンタルなども行っています。
自治体のワーケーション誘致事例:北海道下川町
北海道北部に位置し、人口約4,000人の下川町では、地方自治体が主体となり、積極的にワーケーション誘致に動いています。
長期滞在者向けに格安で利用できる滞在施設「エコハウス」を提供しています。その他、市街中心部にはテレワークが可能で、パブリックスペースは無料、そして会議室なども廉価で活用できるスペース「コモレビ」を整備し、ワーケーション活用企業の積極的な誘致を行っています。
政府の取り組み:おためしサテライトオフィス
総務省では、従来から地方にサテライトオフィスを持つことを希望する企業の支援事業を行っています。その一環として、地方でオフィスとして活用できる施設を提供する「お試しサテライトオフィス」事業に取り組んでいます。
この事業のために提供しているサテライトオフィスは、そこに居住しながら働くこともできます。そのため、今後はサテライトオフィスとしてだけではなく、ワーケーションの拠点としても活用できると期待されています。
ワ―ケーションの活用で旅行需要の喚起を
新型コロナウイルスによる緊急事態の中で、必要に迫られてテレワークが広がりました。結果としてノートパソコンの活用、Wi-Fi環境の充実、Zoomといった新しい通信手段の拡充など、ビジネスシーンだけではなく、プライベートを含めた人々のライフスタイルを変える起爆剤となりました。
旅行先で休暇を楽しみながら仕事にも取り組むワーケーションは、都市部への人の集中の回避、通勤時のラッシュアワーの解消などの効果が期待されています。その他にも、インバウンド需要や国内での人の移動の制限で需要が急激に消失した観光業界にとって福音となるなど、大きな可能性を秘めています。
「新型コロナウイルスの流行が収束した後に見えるのは、戻ってきたかつての日常ではなく、全く新しい世界である」という言葉は、日本に限らず世界中の識者やインフルエンサーによってつぶやかれています。ワーケーションもアフターコロナの新しいライフスタイルの1つとして定着していくことが期待されています。
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