新型コロナウイルスの影響が続き、直近の訪日外国人の数は大きく落ち込んでいますが、いずれ回復する時に備えて、インバウンド担当者の対策には余念がないことでしょう。今後ますます「訪日体験の質」向上が求められる中、もっとも必要な取り組みのひとつが「多言語対応の強化」であり、そのよきパートナーとなり得る存在が「翻訳会社」です。
これまでの記事でも取り上げましたが、自動翻訳ソフトの品質には限界があるため、Webサイトやパンフレットなど、自社や自サービスの顔になるドキュメントの翻訳は、専門の翻訳会社に任せるのが一番です。
とはいえ、インターネットで少し検索するだけでも非常に多くの翻訳会社がヒットします。ある調査によると、日本全国の翻訳会社数(法人格所有)は、2017年の時点で1150社ほどあるとのこと。どうすれば、あまたある翻訳会社の中から、良質なパートナーを探し出すことができるのでしょうか。
この記事では、よくある翻訳会社とのトラブルを分析し、その上で、翻訳会社の探し方、間違いのない翻訳会社の選び方を具体的に解説します。
これまでの連載記事
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実際、訪日外国人は「どこ」で多言語対応の不足を感じている?
中国語表記に差をつける!「普通語」と「標準中国語」の違い
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翻訳会社とのよくあるトラブルとその原因
翻訳会社に依頼した場合、よくあるトラブルにはが何があるでしょうか?また、何が原因なのでしょう。それが分かれば、翻訳会社の選び方もイメージしやすくなるでしょう。
日本翻訳連盟が2016年に公表した「翻訳品質評価方法に関するアンケート」で、もっとも多かった2つのトラブルに絞って取り上げてみます。
<参照>
翻訳品質評価方法に関する業界アンケート結果報告(翻訳品質評価ガイドライン検討会/一般社団法人 日本翻訳連盟)
期待した翻訳品質と違う
お客様からのクレームを見ていくと、何と言っても「品質」に関する不満がもっとも多いことが分かります。例えば、「誤訳や訳抜けがある」「数字や記号の転記ミスが残っている」「原文が残っている」といった言語道断の基本的なミスから、「施設名や人名が間違って翻訳されている」「訳文が不自然で流暢に読めない」など、インバウンド翻訳としては致命的なクレームもあります。また、「もう少し違うトーンで訳して欲しかった」など、お客様の好みに合わないといった不満も多いようです。
まず、誤訳やタイプミスなど、基本的なミスが残ってしまう原因は何でしょうか。以下が考えられます。
- 1人の翻訳者で対応しており、別のチェッカーによるダブルチェックがされていない。
- ツールによるスペルチェックが行われていない。
優秀な翻訳者が注意深く作業しても、小さなミスは犯すものです。この種のヒューマンエラーは、工程を工夫しつつ、チームで取り組まなければ撲滅できません。
次に、固有名詞の表記間違い、訳文がぎこちないなどの問題は何が原因でしょうか。以下が考えられます。
- インバウンド翻訳の経験が浅い。
- 翻訳者によるリサーチ不足、チェッカーによるチェックが不足している。
- 腕のよい翻訳者やチェッカーを起用していない。
- ターゲット言語のネイティブ翻訳者を起用していない。
インバウンド翻訳の経験が浅い翻訳会社の場合、この分野の特徴や抑えどころを理解していないため、適切な取り組みができないケースをよく見かけます。
また、訳文がぎこちない場合は、翻訳者の質の問題でしょう。翻訳会社がコストダウンを優先させると、訳文のリーダビリティーが下がる可能性が高まります。
もうひとつの、好みの訳文が上がってこなかったという不満についてはどうでしょうか。
これについては、翻訳会社とお客様の「コミュニケーションの質」に問題がありそうです。多くの場合、文章の善し悪しは「読み手の主観」に左右されますので、作業を始める前に少し踏み込んだ打ち合わせができていれば、この種の問題は最小限に抑えられるはずです。
担当者の対応が悪い
次に多いのは、窓口担当者の対応が悪いというものです。
例えば、「メールで質問しても回答がなかなか戻ってこない」のようにレスポンスが悪さを指摘するケースから、「説明が不親切でよく分からない」「ネイティブが言っているのだから、これでいいの一点張り」のような説明能力や専門知識を疑わせるクレームです。
さらには、「きれいなレイアウトで訳文がもらえると思っていたのに、そうではなかった」とか、「納品後の質問にあまり真摯に応えてもらえなかった」というものもありました。
前者は主に、発注前に翻訳会社の対応の質を見極めることで防げる問題、後者は相互のコミュニケーションを深めることで解決可能と考えます。
間違いのない翻訳会社の選び方
では、上記を踏まえて、間違いのない翻訳会社を選ぶにはどうしたらよいでしょうか。押さえておきたいポイントを6つ挙げてみました。
翻訳会社を選択し、見積もりを依頼する際のチェックリストとしてもご活用ください。
1. コミュニケーションを重視する翻訳会社を選ぶ
翻訳は、単に原文を外国語に置き換える作業ではありません。資料の種類や分野、目的、対象読者が誰なのかにより、訳し方や注意点が変わることがあります。
プロフェッショナルな翻訳会社であれば、この種の情報のヒアリングは必須だと考えるものです。
翻訳の受注前、または業務の開始前に、メールや電話、ときには対面で、さまざまな疑問に対して快く、プロフェッショナルな対応をしてくれる会社は、信頼性が高いといえるでしょう。
また、何度かメールや電話でやりとりしてみて、レスポンスの早さや質を確かめてみることもできます。
事前のコミュニケーションでは、以下のような点を伝えるとよいでしょう。
- 翻訳対象資料の分野(観光、ビジネス、ニュース、行政文書、法律、ITや機械などの技術資料、など)
- 翻訳対象資料の種類(WordやPDFなどのファイル、Webサイト、紙原稿、動画、など)
- 翻訳対象資料の用途(Webサイトで公開、電子ファイル形式で共有、印刷物として販売、など)
- 主な対象読者(男性or女性、学生or社会人、年齢層、タイプ、など)
- 最優先事項(品質、価格、納期、その他)
- 希望する訳文のトーン(過去に自社でOKが出た訳文や、参考にして欲しい文章があれば、具体的に示すとよいでしょう)
- レイアウト調整までしてくれるのか(レイアウト調整はオプションの場合がほとんどです)
- 納品や検収後の質問、修正には何度まで対応してもらえるのか
- 請求のタイミング、支払方法
- その他(用語集の有無、特に注意して欲しいその他の点、資料に対するお客様の思い、など)
2. 品質管理の基本を抑えた翻訳会社を選ぶ
質の高い翻訳を行うには、チームとして取り組み、工程を工夫する必要があります。以下の点を確認し、品質管理の基本を抑えた翻訳会社を選ぶとよいでしょう。
- 適材適所で翻訳者を割り当ててくれるかどうか
観光ガイド、マニュアル、契約書のように分野が異なると、求められる知識や訳文の種類が異なるため、専門分野にはそれ専門の翻訳者が存在します。その会社が、翻訳者を適材適所で割り当ててくれるかは要チェックです。
- ダブルチェック体制で翻訳してくれるかどうか
その会社は、2人のスタッフによるダブルチェック体制を敷いているでしょうか。
チェッカーの役割は、すべての原文と訳文を比較し、訳抜け、誤訳、タイプミスなどを見つけ出して修正することです。また、訳文を素読みして自然な文章にリライトする役割を担うこともあります。
最終的に印刷物として公開する資料の場合、少しのミスが印刷のやり直しにつながる恐れがあります。その場合は、英数字の転記ミス、タイプミス、レイアウトのミスなどを専門にチェックする、さらに別のチェッカーを起用する翻訳会社もあります。
少し余分にコストと時間がかかりますが、印刷をやり直すコストを考えると、念には念を入れた方がよいかもしれません。
- ネイティブチェックが含まれるかどうか
いずれかの工程で、訳文言語のネイティブまたはネイティブと同等の能力を持つ翻訳者が加わるでしょうか。
ときおり、コストダウンのために非ネイティブのみで翻訳を行う会社があるようですが、その言語のネイティブが読むと違和感を感じてしまうことが少なくないようです。
3. インバウンド翻訳経験の豊富な翻訳会社を選ぶ
インバウンド関連の翻訳は、一般文書の翻訳とは勝手が違います。インバウンド翻訳の経験が豊富な翻訳会社を選ぶとよいでしょう。
その会社の公式サイトを調べれば、過去の実績を確認できる場合が少なくありません。
また、実際にヒアリングする機会があれば、以下の重要性を十分に理解しているかどうか、そしてそれをどのように実現するのかを確認してみるとよいでしょう。
- 人名や地名などの固有名詞をどのように翻訳しているか。
地名や住所の多くはWebで正確な読みを検索できますが、一部の地名や、特に人名は電話などで直接確認しなければ分からないケースがあります。
- 施設名や役職名などは、どのように翻訳しているか。
その施設や団体の公式または準公式サイトの外国語版を調査し、定訳が存在するかどうかを確認しなければなりません。
見つからなければ、どのように扱うべきかを発注元に相談する必要があります。
- 一読するだけで意味が分かる、訴求力のある文章に翻訳してくれるかどうか。
4. さまざまな言語に対応できる翻訳会社を選ぶ
前回の記事では、多言語化において絶対に外せない言語をランキング形式でご紹介しました。
2020年の多言語対応「優先度ランキング」JNTOデータと「ビザ緩和策」から見えてくる、絶対はずせない言語7選
日本政府は、2016年3月末に発表した「明日の日本を支える観光ビジョン」の中で、2020年に4,000万人、2030年に6,000万人の訪日外国人を誘致するという目標を設定し、その目標を実現させるためにさまざまな施策を打ってきました。今回のコラムでは、国別の外国人観光客数と増加の推移、伸び率、外国人誘致を目的とした政府の具体的な施策を振り返りながら、多言語対応の優先度をランキング形式で予測してみたいと思います。これまでの連載記事実際、訪日外国人は「どこ」で多言語対応の不足を感じている?中国...
上位は、英語、簡体字中国語、韓国語、繁体字中国語、タイ語などです。地域によっては、番外編で紹介したベトナム語やロシア語、フランス語やドイツ語などの欧州言語への翻訳が必要になるかもしれません。
一度にすべての言語への多言語化はできないかもしれませんが、将来の可能性を考えて、さまざまな言語に対応できる翻訳会社を最初から選ぶとよいでしょう。
5. 適正な単価を提示してくれる翻訳会社を選ぶ
5番目に挙げましたが、発注担当者にとってもっとも気になる点のひとつが、単価または翻訳料でしょう。
どのようにして適正な単価かどうかを判断したらよいでしょうか。オーソドックスなのは、やはり以下の方法です。
- 複数の翻訳会社のWebサイトに掲示されている単価表を比較し、大体の相場を見極める。
- 複数の翻訳会社から相見積もりを取る。
- 翻訳単価の相場を説明しているウェブ上のコラムなどから情報を得る。
例えば、日本翻訳連盟の「翻訳料金(クライアント企業の翻訳発注価格)の目安」というページには、英語⇒日本語、日本語⇒英語のみですが、業界アンケートに基づく目安の単価が紹介されています。
翻訳会社が公開している単価表は、各会社の「標準工程」で対応した場合の単価であることが多く、何を持って「標準工程」とするかは翻訳会社によって異なる場合があります。
見積もりを取る場合は、その単価でどこまで対応してくれるのかを必ず確認してみてください。
<参照>
日本翻訳連盟:翻訳料金(クライアント企業の翻訳発注価格)の目安
6. DTPやプロモーションなど、翻訳+αの業務に対応してくれる翻訳会社を選ぶ
DTPとは「Desktop Publishing」の略で、日本語で作成した原稿と同じレイアウトを外国語で再現することを指します。
多くの翻訳会社がDTPに対応していますが、大抵はオプション料金がかかりますので、この点の確認が必要です。
DTPまで依頼する場合は、元データの形式や複雑度によって、ページあたりの単価が異なりますので、できれば対象となるファイルを翻訳会社に送って見積もりを取るのが確実です。
また、その際に以下の点を同時に伝えるとよいでしょう。
- 元原稿のファイル形式(MS Word、Adobe Illustrator、Indesign、など)
- 元データがIllustratorやIndesignなどの場合、フォントのアウトライン化(文字の図形化)がされていないデータを準備できるかどうか。
Webサイトにせよ、パンフレットにせよ、多言語化そのものがゴールではありません。その資料を多くの外国人に実際に見てもらい、自社や自サービスのプロモーションにつなげることが目的です。
翻訳会社の中には、外国語のライティングスタッフを組織して、Webサイトの多言語でのSEOサービス、SNSを活用した外国人向けのファンサイト運営、外国語でのオウンドメディアの運営といった、プロモーションに特化した会社もあります。
こうした会社は、「プロモーション」というゴールから逆算して、目下の翻訳にも取り組んでくれますので、多言語化の良きパートナーとして理想的と言えるかもしれません。
まとめ
長文かつ専門的になりましたが、間違いのない翻訳会社選びに役立つ6つの点を具体的に解説しました。
「訪日体験の質向上」と切っても切れない関係にあるのが「多言語対応の強化」であり、そのよきパートナーとなり得るのが「翻訳会社」です。ぜひこの記事を参考にして、よい翻訳会社を選択し、充実した多言語対応を進めていかれることを願っております。
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