新型コロナウイルスの感染者は全世界で1,000万人を超えました。収束を迎えつつある国もあるものの、世界全体では未だに猛威をふるっています。
新型コロナウイルスによってインバウンドの市況は一瞬で激変しました。そして、アフターコロナのインバウンド市場はまだ誰にも予想はできません。
そこで、今までのインバウンドの市況がどの様な変遷を経てきたかを振り返ることで、今度の展開のヒントを見つけていきたいと思います。
ビジットジャパンキャンペーンがはじまった2003年からを第一のフェーズとするのであれば、今は「第三のフェーズ」に入ったと説明することができるかもしれません。
それぞれのフェーズごとに、インバウンド市場で何が起こってきたか簡単に見ていき、「第三のフェーズ」においてインバウンド関連事業者は何をしなければならないのかについて考察します。
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第一のフェーズ:「モノ消費の隆盛」
日本のインバウンド業界における転換点とは何だったかを考えた時、大きく三つのフェーズに分けられるのではないでしょうか。
第1のフェーズは訪日中国人観光客による「爆買い」に代表されるような「モノ消費」のフェーズといえるでしょう。
2003年から始まった日本政府の推進するビジットジャパンキャンペーンをきっかけに、日本の企業は本格的に訪日外国人観光客を相手にしたビジネスを考える必要に迫られました。
にわかに盛り上がり始めたインバウンド業界の中で日本企業が目にしたものは、日本の電化製品、貴金属を大量に買い占める中国人の団体旅行客の姿であり、その経済活動に与えるインパクトの大きさでした。
現在の状況を鑑みると、この時のフェーズはインバウンドに対するマーケティング戦略についてはあまり考える必要はなかったといってもよいのかもしれません。
なぜなら「団体の訪日中国人観光客」という決まったターゲットがあり、消費傾向もかなり絞れていた中で対策を打つことができたのですから。
第一のフェーズの後半では訪日中国人だけでなく、他の東アジアの方々も団体で日本を訪れ、訪日外国人全体の東アジアの割合が非常に高くなっていたのも特徴的でした。
また、この時期に東京オリンピックの開催が決定し、2015年には「爆買い」が流行語にもなりました。
第二のフェーズ:「インバウンドマーケティングの高度化」
第二のフェーズは日本政府が「明日の日本を支える観光ビジョン」で当初の目標を上方修正し、2030年に6,000万という目標を掲げ、デービッド・アトキンソン氏が日本が『新観光立国論』で日本が観光立国になる上で欧米豪市場や富裕層の顧客を獲得する事の重要性を説いたタイミングといえるでしょう。
ここで、コト消費・欧米豪市場への戦略的なアプローチの重要性が認識され、インバウンドマーケティングの高度化がはじまりました。
各自治体やDMOが東アジアの団体客にフォーカスするだけではなく、インバウンドマーケティングを取り入れながら欧米豪のFIT向けに対して、続々とPRやプロモーション施策を開始しました。
その間に訪日外客数は年々順調に伸び続け、2019年には3,188万人と、ビジットジャパン事業開始からたった16年間で6倍以上に成長していました。
そして「第三のフェーズ」へ
2020年に入り、私たちは今第三のフェーズに入ったといえます。
新型コロナウイルスの感染拡大によって世界全体で渡航が禁止された今、東京オリンピックが開催される2020年に訪日外客数4,000万人を達成するという幻想は打ち砕かれることになりました。
今まで訪日外客数の順調な増加に伴い、訪日外国人による消費金額もある種「自然」に伸びていました。
そのためインバウンドに関するプロモーション予算は「今後もインバウンド市場が伸びていく」ということを前提に、その費用対効果が曖昧であったとしても看過されていた現実があります。しかし新型コロナウイルスを経験した現在、そのような曖昧な管理は許されなくなりました。
第三のフェーズにおいては、より精緻な計画とプロモーション戦略が必要となります。
渡航制限が緩和される優先順位は
ここで、日本政府が進めている渡航緩和に話を戻しましょう。
現在、対象の4か国に対して1日最大250人、それもビジネス目的限定という条件下での渡航が許可されようとしています。それ以降の動きはいったいどうなるのでしょうか。
ここからはあくまで推測の域を出ませんが、ビジネス目的の渡航が許可されたあとは、次は学術的な目的(例えば留学生など)の渡航が緩和されるようになるでしょう。
そして、「観光目的」の訪日客は上記の渡航客が安定して渡航できるようになったあと、ということになるはずです。
こちらの緩和対象となる国や渡航者の属性の戻りの順番については、ある程度予測した上で対策を打つことが肝要です。
「トラベルバブル」(近隣の域内旅行)の構成
そしてもう一つの論点として、「トラベルバブル」が挙げられます。ここでの「バブル」とは、「バブル景気」のような意味ではありません。
トラベルバブルとは、「近隣の域内旅行」を指します。
社会的、経済的に結びつきの強い近隣の国々が、一つのバブル「泡」を構成し、その域内において国内旅行の延長のような形で旅行の選択肢を広げるやり方です。
すでに、ニュージーランドとオーストラリアがこのアイディアについて検討しています。
日本におけるトラベルバブルの構成員はどこに当たるのかについて考えると、おそらく、東アジアおよびASEAN諸国となるのではないでしょうか。
近い将来、このような近隣諸国の間で、互いに感染状況が抑制されていることを前提条件に渡航が許可されたり、渡航後の隔離義務も無くなるといった形で日本におけるトラベルバブルが構成されると考えられます。
インバウンドを奪い合うライバルは「タイ」
ところで、ASEANにおいて旅行客が多い国、つまり日本にとって「ライバル」となりうる国はどこかというと、それは紛れもなく「タイ」でしょう。
UNWTOのデータによると、2018年のタイの外国人旅行者数は3,827万人でした。中国の6,290万人に次いで、東アジア、東南アジアで2番目に外国人旅行者の多い国です。
タイの他にも、年間3,000万人近い外国人旅行客が訪れている国はあります。香港の2,926万人、マレーシアの2,583万人がそれに当たりますが、旅行消費金額を見るとタイが63,042USDなのに対して、香港は36,703USD、マレーシアは19,143USDとその差は歴然であることがわかります。
様々な機関が調査する中国人の人気旅行先ランキングでいつもタイと日本が拮抗していることからも、インバウンドにおいてタイは日本のライバルか、少し負けている存在といえるでしょう。
勢力図を塗り替える要素は「安全・安心」
しかし、新型コロナウイルスによって第三のフェーズに突入した今、この勢力図を一気に逆転する方法が考えられます。
ウィズコロナ・アフターコロナの時代には、旅行先の選択基準として1つ重要な条件が加わります。それは「安全・安心」です。
この「安全・安心」とは、以下の二つが満たされていることによって実現します。
安全:医療体制が整っているとともに、衛生管理やクラスター発生防止策をはじめとしたコロナ対策が、各自治体やホテル、飲食店、商業施設等でしっかり取り組まれている
安心:上記の案内や情報発信が多言語で行われており、かつタイムリーである
日本はこの「安全・安心」において、タイよりも一歩リードすることができるのではないでしょうか。
なぜなら、日本は「清潔な国」というパブリックイメージがあります。これは「安全・安心」を支える重要な要素です。
実際に各事業者がどんな感染予防対策をしているかももちろん重要ですが、このパブリックイメージは大きなアドバンテージになるのではないでしょうか。
第三のフェーズにおいては、日本が元々持っていた「安全・安心」を支えるパブリックイメージに加えて、現場での衛生管理、クラスター発生防止策を徹底し、実際に「安全」であることをPRすることで、にわかに重要性を帯びてきた要素「安全・安心」においてタイを十分に引き離すことができるのではないでしょうか。
しかし、このアドバンテージを十二分に活かすには、今後来るであろう第二波に対応しつつ、日本の旅行者はもちろんのこと、訪日外国人を受け入れられるようになった段階でこの「安全・安心」をどのように世界に発信していくかが重要となります。
そして、今までタイに流れていた外国人旅行客に日本を旅行先に選んでもらうことで、アフターコロナにおけるインバウンドの勢力図を一気に塗りかえられるかもしれません。
アフターコロナを見据えた準備期間である現在は、そんな可能性を秘めた時期ともいえます。
観光4大要素に追加すべき「安全・安心」とは?インバウンド復活を成功させる「2つの新条件」
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「第三のフェーズ」に備えるために
日本のインバウンド業界の歴史にはいくつかの転換点があり、その転換点によって業界は学び、市場全体が成長してきました。
今回考察した「第三のフェーズ」は未だ私たちが経験したことのないフェーズではありますが、そもそも日本のインバウンド業界もまた、発展途上ということも忘れてはなりません。
感染対策によって誘致できる訪日外国人も観光地のキャパシティも限られている中、インバウンド関連事業者はより精緻なターゲティングとプロモーション施策が必要になってきます。
インバウンド業界にとって苦難の状況が続く「第三のフェーズ」は、見方を変えれば業界をより成熟させる一つの成長機会と捉えることもできます。
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