横浜、IR誘致の道途絶える。残る候補地と拭われぬ不透明さ

8月22日に横浜市長選挙が行われ、「IR誘致」の即時撤回を掲げた山中竹春氏が当選しました。

9月10日の所信表明演説では、「誘致の撤回を宣言する」と述べ、10月1日付で同市のIR推進室を廃止することを明らかにしていました。

残る候補地は和歌山県、大阪府・市、長崎県の3地域ですが、IRに対してはカジノ依存症などの懸念から、逆風が吹いている状況です。

本記事では、他の3候補地の状況と、今後の見通しについてまとめます。

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日本、IR候補地は大阪、和歌山、長崎のみに

横浜で「IR誘致撤回」が宣言されたことにより、日本の残る候補地は3箇所のみとなりました。

それぞれの候補地の状況について整理します。

大阪、「横浜の動向は大阪には影響がない」と発言

今回の横浜のIR誘致撤回を受けて、大阪府の吉村洋文知事は「大阪には影響がない。横浜の動向にかかわらず世界最高水準のIRを実現させたい」とコメントしました。

大阪府と大阪市が進めるIRには、オリックスと米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナルの共同事業体が応募しており、事業者として9月中に選定される見通しとなっています。

なおギャンブル依存症への懸念については、「啓発などで強い対策を取りたい」と話しました。

ただし開業は2028年になる見込みで、2025年の大阪万博後となる見通しです。

和歌山、IRの運営事業者を国内初選定

和歌山県のIR誘致計画においては、事業者として重要視されてきた「サンシティグループホールディングスジャパン」が、2021年5月12日に事業から撤退すると発表しました。

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その後2021年6月2日に、事業候補者にカナダのカナダのクレアベスト・グループが選定されました。

和歌山市南部の人工島「和歌山マリーナシティ」への誘致を行う見込みで、和歌山県は2026年春の開業を目指していますが、クレアベストは2027年秋の開業を提案しています。

8月25日に基本協定が締結されており、協働していく様子がうかがえます。

長崎もオーストラリアの運営事業者と締結

長崎県は、ハウステンボスに誘致を目指すIRの設置運営事業予定者として「カジノオーストリアインターナショナルジャパン」を正式決定し、8月30日に基本協定を結びました。

ハウステンボスに隣接する約31ヘクタールに既存の施設を活用しつつ歌舞伎などの日本文化が体験できる「ジャパンハウス」のほか、最大1万2,000人を収容可能なMICE施設を整備する計画となっています。

さらに7タイプの宿泊施設を整備し、外資系ホテルブランド「ハイアット」が運営に参画します。

中村知事は基本協定の締結を受けて、「コロナで影響を受けた観光関連産業や地域の活性化、九州の地方創生などに貢献できるよう実現に力を注ぐ」とコメントを発表しました。

一方で、落選した2事業者は、採点方法に不透明な部分があるとして抗議しています。

IRの反対理由は「治安悪化」「イメージ悪化」、政府と世界の対応は?

山中市長の公式ホームページには、IR撤回の理由として「横浜らしい魅力でまちづくりを!」と記されていました。

神奈川新聞の調査によると、横浜ではIR計画に7割の人が反対しており、その理由として「他の政策を優先させるべき」が27.14%とトップに挙げられ、次に「治安の悪化が心配」(25.74%)、「カジノが横浜のイメージにそぐわない」(22.5%)、「ギャンブル依存症になる人が増えそう」(17.5%)と続きました。

このようなIRをめぐる問題に対して、政府ではどのように対応しているのでしょうか。

中央政府の方針:対策を行うことを明記するも、具体的な基準は明らかにせず

2016年9月から行われた第192回国会の「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案に対する附帯決議」において、「日本らしい魅力の担保」「治安維持」「ギャンブル依存症等の対応」については盛り込まれていました。

2018年に、ギャンブル依存症への対応策が「特定複合観光施設区域整備推進会議」で明記されており、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(通称IR推進法)にも盛り込まれていました。

ただし末尾に「十分に国民的な議論を尽くすこと」とあるものの、その具体的な議論の形は明らかとなっていません。

治安悪化につながったという事例がないことが十分に説明されていない、議論が尽くされていないことが不透明感につながる可能性もありそうです。

世界の事例:シンガポールでは治安の悪化見られず

日本政府は海外のIRについて、経済効果や懸念事項などに関するデータをまとめています。

治安の悪化に関しては、2010年に2つの⼤規模なIR施設が設置されたシンガポールでは、カジノ設置前後における、⼈⼝10万⼈当たりの犯罪認知率(全体)の⼤きな変化は⾒られません。

また犯罪類型に着⽬しても、体感治安の悪化につながるような殺人や強姦、強盗、住居侵入、窃盗などの犯罪について、カジノ設置前後で大きな変化は見られていません。

ギャンブル依存症に関しても、カジノ導入後に対策がなされ、依存者はむしろ減少傾向にあります。

ただし魅力については資料の中では見られず、2018年には、日本独自の取組としてそれらを推進したい方向性がうかがえました。

懸念点への十分な議論や説明が求められる

横浜はIR撤回を表明したものの、大阪、和歌山、長崎の3都市では、IR誘致に向けた動きが着々と進められています。

IR誘致にあたり、横浜の人々は治安の悪化やイメージの低下、ギャンブルなどの問題に対して懸念を示していました。

IR推進法には、ギャンブル依存症への対応や、その土地ならではの魅力を引き出すことについては明記されています。

治安についても、海外事例からは大きな治安悪化は見られないことが分かっていますが、そのあたりへの十分な議論や分かりやすい説明がないために住民の不安感が払拭されていないことも考えられます。

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

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