日本政府観光局(JNTO)は、インバウンドの復興と観光消費額拡大、地方誘客促進を目的にアジアにおける大規模キャンペーン事業を実施しています。
2024年度は、世界でも高いシェアを占めるOTA2社(Klook / Ctrip)と連携。東アジアおよび東南アジアの10市場を対象にプロモーションの強化や各種誘客促進策を予定しています。
2024年8月29日に行われた事業者向け説明会では、JNTOのほかKlookとCtripの担当者も登壇。大規模キャンペーンの概要と合わせて、各社の顧客データをもとにした2024年の旅行トレンドについて発表がありました。
本記事では、説明会の内容をもとにJNTOの大規模キャンペーンの詳細と訪日旅行の最新動向についてご紹介します。
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JNTO「2024年度アジアにおける大規模キャンペーン事業」
2020年度から始まった「アジアにおける大規模キャンペーン事業」は、コロナ禍からの復興や観光消費額の増加を目指すとともに、2023年度からは地方誘客に重点を置いて展開しています。
以下のアジア10市場を対象とし、訪日回数2〜5回程度のライトリピーターがメインターゲットとして定められています。
- 韓国
- 中国
- 台湾
- 香港
- タイ
- シンガポール
- インドネシア
- マレーシア
- フィリピン
- ベトナム
なかでも韓国・中国・台湾・香港・タイ・シンガポールは「重点市場」と位置づけられています。
2024年度の事業概要
2024年度はOTA(Online Travel Agent)のKlookとCtripの2社と連携して取り組みを実施。共同広告や割引クーポンの発行、メディアインフルエンサー招請のほか、オーバーツーリズム対策にも資する取り組みも行う予定です。
また地方への誘客促進策のひとつとして、格安航空会社(LCC)のPeach Aviationとも連携し、国内線利用促進に向けた共同広告も実施していきます。
送客強化地域を再設定
2024年度のキャンペーンでは、2023年度から送客強化地域が変更されることが発表されました。
2024年度の送客強化地域については、以下の表をご覧ください。
市場 | 送客強化地域 |
---|---|
中国 | 沖縄 |
台湾 | 瀬戸内・四国 |
香港 | 中部 |
韓国 | 北海道 |
タイ | 九州 |
シンガポール | 関東 |
マレーシア | 東北 |
インドネシア | 九州 |
ベトナム | 関西・山陰 |
フィリピン | 関西・山陰 |
※送客強化地域は一部を除き、原則として三大都市圏は対象外
関連記事:2023年度「アジアにおける大規模キャンペーン事業」について
Klook:観光事業者がOTAを活用するメリットや特徴
2024年度にJNTOが連携するOTAのひとつである「Klook」は、香港とシンガポールに本社を構えるグローバルOTAです。
ホテル予約のほか、交通チケットや体験型アクティビティの予約販売に強みがあり、訪日客の4人に1人はKlookを活用しているほどの認知度の高さがあります。
関連記事:Klook(クルック)とは?香港発の旅先体験予約サイト・使い方と人気の理由・お得情報総まとめ
今回の説明会ではKlookの事業概要のほか、OTAを活用するメリットや売れやすい商品の特徴、地方誘客への取り組みについても詳細な説明がありました。
OTAを活用するメリット
Klookが発表した、OTAを活用するメリットは次の3つです。
- OTAの広告(プロモーション)を活用可能
- カスタマーセンターによる顧客対応
- 事前予約による当日キャンセルの回避
Klookに限らず、OTA各社はSNSや外部広告など多種多様なツールを使用して世界中で宣伝活動を行っています。観光事業者は掲載料や販売手数料(Klookでは販売手数料のみ)を支払うことで、OTAが実施するプロモーションに参加できる点は大きなメリットです。
また、Klookなど大手OTAは常時カスタマーセンターを稼働させており、国内外の利用者からの問い合わせに対応しています。キャンセルや払い戻しの対応を含め、顧客対応を一手に任せられる点もOTAを活用するメリットのひとつです。
そのほかにも、OTA上で事前予約と購入を済ませることによって、心変わりによる当日キャンセルを防止する効果もあるといいます。
訪日客が求めているものとは
Klookは、訪日客に人気のある商品については「日本でしかできない体験」「日本でしか見られない景色」「日本でしか食べられない食」を求めている人が多いといいます。
一方で、「日本らしいが、日本のどこでもできる体験」では、地方に観光客を呼び込むことは難しいといえます。観光客の多くは東京や大阪をはじめとするゴールデンルートを訪れ、そこで満足すると地方への旅行を検討しなくなってしまうためです。
そこで地方誘客促進には「その場でしかできない体験」を考えることが重要であり、各地にある独自の魅力を商品化していくことが、今後の取り組みとして必要だとKlookの担当者は述べました。
また、「メイド・イン・ジャパン」や「日本の文化体験」もインバウンド誘客におけるキーワードのひとつだといいます。日本独自の卓越した技術に価値を感じる観光客も多く、引き続き人気があります。
また、食文化や日本独自の自然を体験するアウトドアツアーなども需要が高く、強みとして商品開発やOTAへの掲載を検討すると効果的だといいます。
OTAでよく売れる商品の特徴
実際にKlookでよく売れる商品の特徴については、次の通りです。
- 即時予約できる
- 当日・前日購入が可能
- 直前までキャンセル料が発生しない
- 1年を通して販売している商品
旅行中(旅ナカ)にアクティビティを予約する観光客も多く、OTA上で興味を持ったユーザーが、その場ですぐに予約できる環境を整えておくことが重要です。商品によって異なりますが、予約が空いていれば開催日の直前まで購入できる商品も人気があるといいます。
キャンセル料については「当日キャンセルには請求を」としつつも、2日前など直前まで無料対応している商品の方が人気があるとしています。
地方誘客への取り組み
Klookでは、広島県の平和記念資料館の電子チケットの取り扱いを2024年2月16日に開始。これまで当日の窓口販売のみだった資料館のチケットを、Klookを使いオンラインで事前購入・予約ができるようになりました。チケットは訪日客向けに多言語(14言語)で販売し、海外向けのプロモーションも実施しました。
これまで大阪や京都からの日帰りバスツアーに圧倒的なシェアがあり、資料館への観光客は増えても現地の消費額が伸びない点が課題でした。今回の取り組みの結果、広島駅発着ツアーのシェアが一気に上昇。地方への誘客促進と消費額の増加に寄与できたといいます。
Klookでは今後、入場券やホテル、交通機関などをセットで販売をすることで、美術館や博物館などの施設やホテルの露出を上げる取り組みを実施していく方針です。
「2024年度アジアにおける大規模キャンペーン事業」での取り組み
Klookは本キャンペーンの取り組みとして、中国を除く9市場のキャンペーンページを作成し、プロモーションを行います。
そのほかにはKlook内でのバナー広告・割引クーポン・SNS投稿などを行う予定です。また外部広告も活用し、キャンペーンページへの誘導を行うといいます。
Ctrip:中国市場の最新インバウンド動向
Trip.comグループ傘下のCtrip(携程)ブランドは、中国最大級のオンライントラベルエージェンシーです。中国本土で約3億人のユーザーにサービスを提供し、中国本土以外ではTrip.comブランドで展開しています。
グループ企業には航空券予約サイト「スカイスキャナー」も有しており、Ctripとスカイスキャナーを合わせると、航空券予約の世界シェアはかなり上位に達しています。グループ各ブランドのアプリは世界合計で30億ダウンロードを記録し、27か国で展開・24か国語に対応しています。
今回の説明会では、中国市場の特徴やCtripのデータによる上半期の訪日旅行に関するトレンドなどが紹介されました。
関連記事:訪日ラボ:携程(Ctrip)を活用して中国人観光客の集客を!概要・登録方法・強みを解説
引き続きポテンシャルが高い中国市場
2024年8月の中国の訪日外客数は74.6万人で1位となっています。また4〜6月の訪日外国人消費額も4,420億円で1位となっており、日本における中国市場の存在感の大きさが示されています。
一方で、コロナ前の2019年同月と比較すると、8月の訪日外客数は25.5%減となっています。そのため中国市場は回復途上であり、今後もさらなる伸びが期待できるといえます。
関連記事:【速報】8月の訪日外客数293万人 台風の影響で3か月ぶりに減少するも、同月過去最高を記録
中国人の誘客は経営の持続可能性に貢献
Ctripの中国ユーザーの予約動向をみると、旅行予約が週末だけに集中することはなく、平日であってもコンスタントに予約を入れる傾向があります。
また、中国人観光客は海外旅行の際にビザ申請が必要な場合も多く、旅行に出発するまでの準備期間も長くなります。結果的に、予約から宿泊までのリードタイムが比較的長い点も特徴です。
曜日に関係なく、先々の予約が入りやすい中国人観光客が増えることは、観光事業者にとって年間の計画を立てやすくなるというメリットがあるといいます。
中国人の情報収集方法
中国ではGoogleなどの検索エンジンを利用できません。そのため、中国人観光客はCtripのような予約媒体やSNSを情報収集に活用します。
Ctripでは旅行予約以外にも、旅行情報や現地の遊び方などの攻略法を発信しており、情報プラットフォームとしても利用が広がっています。さらに実際に現地を旅行したユーザーが観光情報や写真を共有することも可能です。
SNSでの情報収集も積極的に行われており、TikTok(抖音)をはじめ、WeChatやWeiboなどの独自SNSも活用されています。
関連記事:中国人の訪日意識調査 8割「訪日意向あり」、半年以内の訪日希望が最多
2024年の訪日市場トレンド
Ctripがまとめた訪日市場トレンドのキーワードは、以下の2点です。
- お金を使った素晴らしい体験
- 自由でオリジナリティのある観光を重視
コロナ禍を経て、金額よりもクオリティを重視する傾向が強くなり、特に自分たちの目的にあった体験内容を好むようになったといいます。
ここからは、Ctripが発表した訪日中国人観光客の分析をご紹介します。
関連記事:中国の訪日客数、コロナ後初の1位に!その背景をJNTO北京事務所長 佐藤氏に聞いた(2024年7月)
2024年、日本は人気の旅行先に
Ctripの実際の予約データによると、2024年の春節期間の海外旅行の人気目的地は、タイが1位で日本は2位でした。一方で2024年5月の労働節と6月の端午節では、日本がタイを抑えて1位になり、その後は1位をキープしています。
航空便の回復遅れなどの影響があったものの、徐々に旅行ムードが歓迎されるにつれて、訪日旅行への意欲も高まったといいます。
また前年と比較して、予約数だけでなく予約額が大きく伸びていることも中国市場の現在の特徴のひとつだと分析しています。
中国市場の旅行者属性
Ctripの分析によると、中国市場の旅行者属性は男性よりも女性が多く、特に80年代・90年代生まれが全体の75%を超えているといいます。
今回の説明会では、中国と日本を結ぶ航空便数がまだ完全に回復していない状況でも日本が人気を集めている理由として、中国のハブ空港の存在が挙げられました。
「一線都市」や「新一線都市」と呼ばれる地域は中国でも最大級のハブ空港を抱えており、訪日旅行ユーザーの居住地が集中する地域でもあります。中国のハブ空港は日本路線の就航も多いことから、日本が旅行先として選ばれていると考えられています。
関連記事:中国の都市階級とは?1線都市、2線都市の定義・急成長する下沈市場について
高付加価値旅行者層も多数
そのほかの特徴として、訪日中国人観光客には富裕層が比較的多いことも挙げられています。Ctrip上では年間消費額に応じてユーザーにランクを付与しており、日本へ旅行するユーザーは年間消費額の高い「プラチナ」以上のランクを保有している人が多いことも確認できたといいます。
また訪日中国人観光客の1回の滞在日数は、欧米と比べて短い傾向にあるものの、年間を通して何度も来日する観光客が多くなっています。宿泊スタイルは、四つ星以上のホテルを予約する観光客が全体の60%以上を占めており、いわゆる高付加価値旅行者が多いといいます。
「2024年度アジアにおける大規模キャンペーン事業」での取り組み
Ctripは本キャンペーンの取り組みについて特集ページを作成し、送客強化地域である沖縄や日本の紹介を行う予定です。またFIT(個人旅行者)が特集ページからすぐに予約できるような商品の造成も考えているといいます。
情報収集にも活用されるCtrip内でターゲティング広告を活用することで、コンバージョン率を高めていく考えを示しました。
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