新型コロナでインバウンド市場はどうなる?苦境と課題、この先の打ち手

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新型コロナウイルスによる経済への影響は「コロナショック」とも呼ばれ、自粛ムードの広がりとともにその影響は大きく広がっています。そんなコロナショックでも大きく影響を受けているのがインバウンド業界です。

予定されていたオリンピックが延期され、入国制限によりインバウンドの観光需要そのものが消失してしまいました。

2020年10月4日、日本政府は来年夏に延期されたオリンピック時の外国人観光客の入国解禁に向けて「発熱センター」を設置することを明らかにしました。これにより、2021年のインバウンド市場に明るい光がさしたといえます。

本記事では新型コロナ流行後のインバウンド業界を取り巻く状況を紹介しながら、これからのインバウンド業界が取るべき対策について解説します。

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新型コロナウイルスの打撃を受けたインバウンド業界

多くの業界が新型コロナウイルスの影響を受ける中、インバウンド業界も深刻な状況下にあります。インバウンドを取り巻く状況がどのように変化したかを振り返ります。

入国制限による人の流れの停滞

日本政府が実施する新型コロナウイルス対策の一つとして、海外からの入国制限が挙げられます。最初に対策がとられたのは中国と韓国の2か国であり、この2か国に対して3月5日、海外の日本大使館・領事館で発行された日本への入国を許可するビザの効力停止措置がとられました。これにより、中国と韓国で発行されたビザは効力を失い中国や韓国から観光目的での渡航が制限されました。

その後、欧米を中心とし世界的大流行に発展した事実を背景に、外務省は水際対策として流行地域からの入国拒否措置を実施しています。この入国拒否措置は、5月25日にはインドや南アフリカなど11か国が対象国に追加され、5月26日現在、合わせて111の国と地域が入国拒否の対象となっています。

一方で、一部の国に限り一日最大250名かつビジネス目的限定で入国制限を緩和する動きも、6月初旬から見られています。

「1日250人」タイ含む4カ国から入国開始: 中国不在…インバウンド上位国はいつから?(2020年6月)

新型コロナウイルスの世界での流行拡大を受け、日本では水際対策として、111の国と地域について、外国人の入国を拒否し、日本人にはこれらの国と地域への渡航中止を勧告しています。きょう6月11日の報道によれば、日本政府はこの入国制限について、タイ・ベトナム・オーストラリア・ニュージーランドの4か国を対象に、一日最大250人程度の入国を許可する方針であることがわかりました。制限緩和の検討については6月初旬より伝えられていましたが、今回具体的人数や条件が一部明らかになりました。入国規制の緩和はビジネ...

【速報】中国・韓国からの入国者全員が事実上の入国拒否へ、政府は中韓へ訪日観光自粛を要請

世界的に流行している新型コロナウイルス(COVID-19)の水際対策として、日本政府が新たに中国人と韓国人、イランに対する入国制限を実施すると産経新聞が報道しています。関連記事IOC「大会4か月以上前に決定を行う必要はない」【速報】台湾、日本からの入国者を事実上、入国制限韓国版「マスクマップ」登場!アメリカ、フランスのディズニーも続々閉鎖!目次中国と韓国からの入国者全員が入国制限中国と韓国からの入国者全員が入国制限産経新聞の報道によると、日本政府は新型コロナウイルス(COVID-19)の流...

激減する訪日外国人

新型コロナウイルスの流行やそれに伴う入国拒否措置、さらに航空便の減少等により訪日外国人は大きく減少しています。日本政府観光局によると、2020年5月の訪日外国人客数は1,700人と前年同月に比べ99.9%減となっています。

これまで訪日中国人は訪日外国人全体に対し大きな割合を占めていましたが、2020年5月は30人と前年の同月の75万6,365人を大きく下回りました。

そのほか、前年同月には60万3,394人であった訪日韓国人は20人に、前年同月42万6,537人であった台湾からの訪日客は10人未満となっており、東アジア市場の落ち込みが顕著になっています。

東アジア市場に限らず、米国や英国などの欧米諸国も99.9%、あるいは100%前年の同月に比べ減少するなど、地域に関係なく訪日外国人の激減が発生しています。

3月の外国人宿泊者数85.9%減、アメリカ・オーストラリアが中国追い抜く【観光庁、宿泊旅行統計調査:2020年3月第1次速報】

観光庁は4月30日、宿泊旅行統計調査の2020年3月第1次速報を発表しました。発表によると、2020年3月の延べ宿泊者数は2,361万人泊で、前年同月比49.6%減となりました。また、外国人延べ宿泊者数は前年同月比85.9%減と、大幅なマイナスになりました。この記事では、3月の宿泊旅行統計調査を読み解き、訪日外国人宿泊者の動向について解説します。《注目ポイント》外国人延べ宿泊者数は前年同月比85.9%減アメリカ、オーストラリアからの宿泊者数が中国を追い抜く関連記事コロナ影響、2月は外国人延...

苦境に立たされた事業者

訪日外国人客が減少したことで厳しい状況に置かれることになった事業者が多くあります。宿泊業界もその一つであり、コロナ禍により利用者が激減し施設の閉鎖や事業転換を余儀なくされる事業者も出てきています。

帝国データバンクが発表した5月21日16時時点での情報では、174件の新型コロナ関連の倒産のうちホテル・旅館が35件と、全体の約5分の1を占めています。

大手旅行会社である近畿日本ツーリストは3月24日、20億円の黒字と予想されていた2020年3月期の当期損益が98億9,000万円の赤字に転落すると発表しました。インバウンド専門の旅行会社であるHANATOUR JAPANも大きな損害を受けており、3月24日に希望退職者の募集を始めました。

民泊事業も苦しい状況におかれています。2013年に創業し、その後のインバウンドブームにあわせて成長した大阪のベンチャー企業「FURUEL(フルエル)」の民泊は、日本文化を体験できることから稼働率が1月まで8割超という人気ぶりでしたが、3月には利用者がほぼゼロになりました。

新型コロナウイルスのニュース時系列まとめ/5月編:緊急事態宣言の解除・社会経済活動を段階的再開・第2波に懸念

新型コロナウイルスの流行を受け、日本では4月7日より、埼玉県、 千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の 7都府県を対象に緊急事態宣言が発令され、16日には対象が全国に拡大されました。緊急事態宣言は5月末まで延長を予定されていましたが、5月14日に39県で、21日には関西で、25日には1都3県が緊急事態宣言が解除となります。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は続いていることから、「新しい生活様式」の確立を進めつつ社会経済活動や日常生活は段階的に再開していくことにな...

アフターコロナを見据えた動き

苦境を強いられているインバウンド事業ですが、コロナ収束後、つまりアフターコロナへ向けた動きも始まっています。外国人の訪日意欲及び政府の進める対策について紹介します。

外国人の訪日意欲は健在

各国で広がる渡航・入国制限の動きに乗じ、日本でも入国拒否施策を強化するなど先の見通せない厳しい状況が続いていますが、一方で外国人の訪日旅行への意欲はいまだ健在です。

2020年4月にアジアの9ヶ国の10代から60代までの男女2,425人を対象にオンラインで実施された調査が、このことを裏付けています。

この調査は、アジア向けに日本を紹介するメディア『FUN! JAPAN』を手がけるFun Japan Communicationsが実施しました。

「訪日旅行が安全であると判断出来たら日本に行きたいですか?」という質問に対して、対象となる9か国のうち7か国は「はい」が90%以上を占めました。

加えて、「安全であると判断してからいつ頃日本に行きたいですか」という質問項目の回答からも、比較的高い訪日意欲が垣間見えます。「期間ではなく季節に合わせて訪日したい」と回答した人の割合が多くなっていますが、なるべく早く日本を訪れたい層も存在します。特に香港はその傾向が顕著で、「1か月以内」に8%が、「1〜3か月以内」に33%が、「3~6か月以内」に33%が収束後の訪日を考えているという結果が出ています。

冷え込みが続く日本のインバウンド業界ですが、このような調査結果を通してアフターコロナに向けて動き出すことの有効性が見出せます。

アジア7か国「安全なら日本に行きたい」90%超、欲しい情報は「正確な安全情報」:新型コロナ インバウンド意識調査で

現在日本では新型コロナウイルスの影響で訪日旅行客が大幅に減少しており、2020年3月の推定値は前年同期比93.0%減少の19万4,000人まで落ち込んでしまいました。 訪日旅行客の減少はいつまで続くのか、いつになったら客足が戻ってくるのか、それらのことが

政府によるインバウンド事業の支援

厳しい状況を受けて政府も対策に乗り出しました。政府が4月7日に発表した2020年度の補正予算では、観光消費回復に向けた4つの支援策を打ち出しました。

「国内に向けた観光需要喚起策」として1兆6,794億円が計上されることとなり、旅行商品や地域商品、飲食の割引サービスが受けられる官民一体型キャンペーン「Go To キャンペーン」が施行されます。

また、インバウンド復興への取り組みとなる「訪日外国人旅行客の需要回復のためのプロモ-ション」としては96億2,400万円が計上されています。

運休航空路線の再開を後押しし訪日外国人客数の回復を図るため、航空会社や旅行会社のような観光事業者との連携を深め、大規模なプロモーションをJNTO(日本政府観光局)主導で行うとしています。

【速報】観光庁が「Go To トラベル事業」詳細を公表:補助金上限・クーポン加盟店のイメージ解説/運営業務の企画競争実施を公示

2020年6月16日に観光庁は「Go To トラベル事業における運営業務」の企画競争実施を公示しました。 「Go To トラベル事業」は、新型コロナウイルス感染拡大で大きな打撃を受けた観光産業を支援し、官民一体で需要を喚起するための観光振興事業であり、その予算額の大きさから世間の注目を集めています。 ことし4月7日の観光庁による「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の施策に対する補正予算の概要発表ののち、事業概要の詳細について初めて明らかになりました。 ※6月16日時点の情報です。G...

【東アジア】インバウンドV字回復の鍵は中国か:JNTO「反転攻勢」の訪日プロモーションスケジュールから施策のタイミングを探る

4月6日に、JNTO(日本政府観光局)が最新の観光プロモーションスケジュールを公開しました。昨年から世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスの影響によって、インバウンド業界全体は今大きな打撃を受けています。しかし、そういった状況にあってもアフターコロナを見据え、インバウンド業界の大きな動向を把握しておくことは、非常に重要です。今回は、東アジア各国を対象としたJNTOのプロモーションスケジュールを紹介します。インバウンド業界の「反転攻勢」とすべく、JNTOのインバウンド拡大に向けた施策と...

新型コロナウイルスによって露呈した日本のインバウンドが抱える問題

苦境に立たされているインバウンド業界ですが、課題は以前から存在しており、新型コロナウイルスによって浮き彫りになった、との見方が強くあります。

新型コロナウイルスによって露呈した、日本のインバウンドが抱える問題を2つの観点から解説します。

訪日中国人の「爆買い」に乗じた「モノ消費」の限界

2019年の訪日中国人は訪日外国人全体の3割を占めるなど、日本のインバウンドにおいて中国の影響はとても大きなものでした。実際に、訪日中国人はツアー客として団体で日本を訪れるだけでなく、「爆買い」などを通じて日本の観光業界を支えていました。日本は10年近くこういった恩恵を受けてきました。

しかし、彼らの需要が爆買いに見られる「モノ消費」から体験を中心とした「コト消費」へと移り変わるにつれて、インバウンド業界はその対応が求められています。中国だけではなく、欧米諸国からの訪日外国人においても同じことがいえます。

コロナ収束後もこれまでと同じ「モノ消費」に標準を合わせた対策に頼っていては、収束後のV字回復は見込めません。これまで以上に、日本の伝統文化や日本らしい体験に重きを置いた「コト消費」に標準を合わせた対策が必要です。

訪日外国人の「客単価」の低さ

政府は2016年に「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、今後の訪日外国人の数、訪日外国人の旅行消費額の目標値を設定しました。

これによると、訪日外国人の数は2020年までに4,000万人、2030年までに6,000万人となっており、訪日外国人客の旅行消費額は2020年までに8兆円、2030年までに15兆円となっています。

この目標値に対して、JNTOのによると2019年の訪日外国人外客数は約3,188万人、観光庁訪日外国人消費動向調査」によると2019年の訪日外国人の旅行消費額は4兆8,135億円という結果でした。

2019年の数値の2020年の目標値に対する進捗率は、訪日外国人の数の方が約80%となっています。その一方で、訪日外国人の旅行消費額は約60%となっており、訪日外国人の数に比べ難航していることがわかります。

この目標達成率の差が示すのは、訪日外国人1人あたりの消費額が少ないということ、すなわち「客単価」の低さに他なりません。

この「客単価」の底上げが、今後のインバウンドの成長には必要不可欠となるでしょう。

新型コロナを契機に足元を固め、着実なインバウンド事業の拡大を

新型コロナの影響を受け、インバウンド業界は大きく冷え込むこととなりました。東京オリンピックの延期も決まり、さらなる低迷が予想されるインバウンド事業ですが、政府の支援を活用しながらアフターコロナを見据えた対策を進めることが大切です。

そして、今回のコロナショックを機にこれまで日本のインバウンド業界が抱えていた問題が表出しました。「モノ消費」から「コト消費」へと移り変わる時代に即した対策へと舵を切る、「客単価」を上げるための戦略を練る、といった課題解決に向けた取り組みに着手するのが望ましいでしょう。

依然として厳しい状況は続きますが、新型コロナウイルスをインバウンド対策を見直す契機として捉え、「アフターコロナ」を見据えて準備を進めることが求められます。

<参照>

観光庁:「体験型観光コンテンツ市場の概観」 世界のコト消費と海外旅行者の意識・実態の調査結果

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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