外国人観光客が増加するにつれて、これまで入国者数が少なかった国の人も観光で日本を訪れるようになりました。
一方で多種多様な宗教、文化を持つ人が訪日することで、その文化や宗教に合わせた対応が求められるようになってきています。異なる宗教や文化を持つ観光客に対応するためには、それに合わせた対応方法について知っておく必要があるでしょう。
本記事では、あらゆる宗教、文化の中でもイスラム教のトイレ事情について紹介しながら、どのような対応が求められているのかを整理します。
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訪日ムスリム観光客の増加:知っておきたいムスリムのこと
イスラム教徒の訪日客が増加したことで、日本ではその文化に配慮した対応が求められています。異なる宗教や文化を持つ国の人へ対応するには、その宗教や文化について知ることが必要不可欠です。
ムスリムとは
ムスリムとはイスラム教徒をアラビア語で表した言葉です。日本語に直訳すると「帰依する者」という意味を指します。
イスラム教は世界三大宗教の一つとしても知られており、2010年時点で世界の信者の人口は中東や東南アジアを中心に16億人を超え、キリスト教に次いで2番目に信仰者数の多い宗教だといわれています。聖典は「クルアーン(コーラン)」です。
また、イスラム教は唯一神であるアッラーを信仰する一神教で、偶像崇拝が禁じられています。
イスラム教では六信五行である「唯一神アッラー」「天使」「啓典」「預言者」「来世」「定命」を信じており、「信仰告白」「礼拝」「断食斎戒」「喜捨」「巡礼」を怠らずアッラーに忠実にいることが特徴です。
訪日ムスリム観光客の増加
ムスリムフレンドリーの旅を推進し、世界での対応状況などを調査するCrecent Ratingが発表したJapan Muslim Travel Intdex(2017年)によると、2017年のムスリム訪日客数は70万人を超えていることがわかっています。
そのうちインドネシアから27%、マレーシアから23%と東南アジアからの訪問が多い傾向にあります。
訪日ムスリム観光客が増加している理由として以下の2点が考えられます。
- インドネシア人とマレーシア人に向けた訪日観光ビザの要件緩和
- LCC(格安航空会社)の就航便増加
ムスリム客の増加を受けて、近年日本では国内のモスクの数を増やしたり、空港における礼拝室を整備したりするなど、各インバウンド事業者がムスリムを受け入れる環境を整えています。
このようなムスリム訪日客増加への日本の対応は世界的にも認められています。同じ会社が発表したGlobal Muslim Travel Index(2019年)によると、ムスリム訪日客への対応を評価したランキングにおいて、イスラム協力機構以外の国の中で日本は3位を獲得しました。
ムスリムのトイレに関する規範
ムスリムへの対応として一般的に知られているのは、礼拝の習慣や「ハラル食」と呼ばれる豚やアルコールを使用しない食事です。しかしそれだけでなく、トイレに関しても日本とは異なる習慣があるため、正しく理解し対応する必要があります。
コーランにおいて「けがれの状態にあるときは、それを特に浄めなくてはならない」と定められているため、イスラム教では排泄の後に排泄部位を水で洗い流さなければならないという規範があります。
この規範に則って、イスラム教を信仰している国ではトイレの個室内にハンドシャワーが備え付けられており、排泄後はこれを利用して排泄部位を洗浄しています。
旅行中のムスリムはどうしてる?TOTO調査から見えたムスリムトイレ事情
ムスリムの方は自国での生活ではハンドシャワーを使っていますが、日本旅行中にはどうしているのでしょうか。
このことについて日本の住宅設備機器メーカー、TOTOが2019年に調査を実施しました。
ムスリムは旅行中でもトイレ利用後に排泄部位は必ず洗う
ムスリムは旅行中であっても規範を厳格に守るといわれています。
TOTOがムスリム訪日客に対して2019年に実施した調査によると、ムスリム訪日客の多くは日本旅行中、ハンドシャワーの代わりに温水洗浄便座を使用していることが明らかになりました。
温水洗浄便座について「あれば必ず使う」と答えた人は82%、「たまに使う」と答えた人を含めると95%に上ります。一方で「洗うことを我慢する」を答えた人は0%でした。
さらに、日本の温水洗浄便座に関して99%の人が知っていると回答していることから、温水洗浄便座はムスリム訪日客のほとんどに認知され、ハンドシャワーの代用品として重宝されていることがわかりました。
また、温水洗浄便座が設置されていないトイレを利用するときに備え、ペットボトルの水を持ち歩きハンドシャワーの代用品として利用するなど、各々独自の方法で規範を守っていることがわかりました。
訪日中トイレを選ぶポイントは「清潔性」と「温水洗浄便座付き洋式トイレの有無」
さらに、TOTOの調査で、ムスリム訪日客が日本滞在中に利用したことのあるトイレのうち「今後好んで使いたいトイレ」として選んだのは、宿泊施設がもっとも多く53%、続いて空港や鉄道駅、バスターミナルなどの公共交通機関が24%という結果となりました。
上記を選んだ理由として、67%の人が清潔感が保たれていることを挙げ、43%の人が多くの場所で温水洗浄便座付きの洋式トイレがあることを挙げています。
一方で「今後二度と使いたくないトイレ」の1位は公共交通機関の35%、次いで公園の15%と、公共交通機関に関しては意見が分かれました。 使いたくない理由としては清潔感が保たれていないこと(41%)や温水洗浄便座がないこと(29%)が挙げられました。
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日本の対策状況:トイレの洋式化や温水洗浄便座設置に積極的
ムスリムを含め、増加する訪日外国人観光客の需要に対応するために、国や各企業ではトイレの整備を進めていおり、洋式化などに積極的に取り組んでいます。
観光庁の今後のトイレ整備の方針
2017年に観光庁が実施した「訪日外国人旅行者受入を想定した観光地における公衆トイレの現状調査」において、観光地のトイレのうち4割が和式であることがわかっています。
一方でTOTOが2018年に実施した調査にて、8割以上の訪日外国人観光客が洋式の利用を望んでいることから、観光庁ではトイレの洋式化を中心に整備を進めています。
しかし、整備が進められているものの和式が残っている場所が未だ多いのも事実です。
観光庁では、トイレが汚く暗い印象だと、観光地の魅力が半減するとの考えから2020年度中に洋式化率7割を目指し、整備の支援を推進していく方針です。
駅等における完全洋式化・温水洗浄便座設置への取り組み
公共交通機関でも整備を進めています。東京都交通局では、地下鉄駅に設置されたトイレの洋式化を進めるとともに、温水洗浄便座の設置を進めています。
加えてバリアフリー化や、増加する訪日外国人観光客の需要に対応するために、老朽化している都営浅草線、三田線、新宿線のトイレについては機能性や清潔感を重視したものに改装する予定です。
洋式化については2020年度に9割、2021年度には整備完了を目指しています。温水洗浄便座は順次整備を進めており、2019年度から2021年度にかけて64か所の整備を完了させる見込みです。
また、JR東海においても、管轄である東海道新幹線全17駅の和式トイレの洋式化や温水洗浄便座の設置が進められています。
「温水洗浄便座」の設置を示すシンボルマーク
さらに、温水洗浄便座が設置されていることが訪日外国人にトイレ利用前に一目で分かるよう、日本レストルーム工業会は2019年にパブリックトイレにおける「温水洗浄便座」の設置を示すシンボルマークを策定しました。さらに洋式や和式のシンボルマークも同時に策定され、3つとも日本工業規格(JIS)に登録されました。

マークの策定を前に日本レストルーム工業会では、外国人を対象としたアンケート調査を実施しています。この調査において「必ず温水洗浄便座があるトイレを使う」「できるだけ温水洗浄便座があるトイレを使う」と答えた人は8割以上に上りました。
また、9割近くが「旅行中に温水洗浄便座の設置情報があると役立つ」と回答しています。新たに策定されたマークを提示することで、外国人観光客を含む利用者がより公共トイレを利用しやすくなります。
トイレも訪日ムスリム客に向けた対応を
ムスリム訪日客の増加に伴い、日本ではその増加に対応する食事や施設の整備に取り組んできました。結果としてムスリムに対応する国として世界の中でも高い評価を得ているものの、未だ不十分な部分も見られます。
なかでもトイレは旅行中に誰しも必ず利用するからこそ、清潔感や利用しやすさが求められる場所です。トイレの洋式化や温水洗浄便座の導入を積極的に進めることで、ムスリム訪日客に対し、より満足度の高い旅行体験を提供することができるでしょう。
[blogcard url="https://honichi.com/news/2017/12/20/musliminbound/"]
[blogcard url="https://honichi.com/news/2017/12/28/massiveharalmarket/"]
<参照>
Crecent Rating:Japan Muslim Travel Index (JMTI) 2017
Crecent Rating:Global Muslim Travel Index (GMTI) 2019
TOTO ニュースリリース:「訪日ムスリム旅行者のトイレ利用調査」結果公表
日本レストルーム工業会 プレスリリース:「温水洗浄便座」設置を表すシンボルマークを策定
【2023年インバウンド最新動向を予測】国・地域別デジタルマーケティング戦略
2022年10月からついに入国者数の上限撤廃、短期滞在者のビザ免除等が実施され、訪日観光が本格的に再開されました。
未だ"完全回復"には至っていないものの、観光地によってはすでに多くの訪日外国人観光客が訪れているところもあり、「インバウンド対策」への関心が急速に高まっています。
では、今やるべきインバウンド対策とはなんでしょうか。そしてそれを国・地域別に見ると、どういった違いがあるのでしょうか。
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