【アジア編】インバウンド市場の最新動向、今後の取り組みは?:JNTO「インバウンド旅行振興フォーラム」(2日目)

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日本政府観光局JNTO)は9月に「第27回 JNTOインバウンド旅行振興フォーラム」を開催しました。

訪日ラボでは、2日間にわたる充実した講演内容からインバウンド対策に役立つ情報をピックアップ。本記事では2日目の内容をもとに、アジア市場の動向とトークセッションの内容をお伝えします。

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市場別のインバウンド最新動向

ここからは、市場別の最新動向とインバウンド誘客に向けた取り組み状況をそれぞれお届けします。

※本記事で取り上げるのは、2日目の講演(アジア市場)に特化した内容です。

台湾市場

フォーラム2日目は、日本台湾交流協会 台北事務所の平澤 友紀氏による台湾市場の解説から始まりました。

台湾からの訪日人数は2023年9月以降、コロナ前2019年の同月数値を上回る水準を維持。同様の推移が続けば、2024年の年間訪日人数は過去最高だった2019年の記録を更新することが期待されています。

台湾からの訪日旅行の特徴として、日本の隅々まで訪れる傾向があるといいます。2023年の各都道府県の外国人延べ宿泊数を国籍別に順位づけすると、25県で台湾が1位、13道府県で台湾が2位という結果でした。

都市部や有名観光地に限らず、日本の様々な地域を訪れ、旅行を楽しむ様子がうかがえます。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

台湾市場はリピーターが多いため、何度訪日しても「楽しい」「また来たい」と思ってもらえる魅力を訴求していくことが重要であり、SNSでの発信や旅行博の出展、旅行会社へのアプローチ等を通じて、まだ知られていない地方の魅力を発信し、リピーター客の獲得と地方誘客を狙います。

関連記事:台湾市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

香港市場

続いて香港市場について、香港事務所長の小沼 英悟氏から解説がありました。

2024年8月の訪日観光客数は24万6,600人となっており、現在のペースを維持した場合、2024年は2019年の229万人を突破する勢いだといいます。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

さらに香港国際空港は2024年末に滑走路が3本体制となり、年間旅客数や1時間あたりの発着数が大幅に増加する予定で、海外旅行および訪日旅行への需要がさらに拡大するのではと期待されています。

香港市場は、訪日経験者が多くを占める成熟市場です。今後はきめ細かい情報発信や航空会社との共同広告、イベント出展などを通じて、再訪日意欲の喚起と地方誘客を目指します。

関連記事:香港市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

韓国市場

続いて韓国市場について、ソウル事務所長の清水 雄一氏から解説がありました。

韓国国内の景気自体には閉塞感があるものの、海外旅行需要は旺盛です。2022年7月以降の国別の訪日客数は韓国が最多であり、2023年は約695万人(訪日客数全体の27.7%)を記録。ブランド品などを含めた購買意欲も旺盛だといいます。

観光・レジャー目的の平均滞在日数は3.6日で、10日以上滞在する場合が多い欧米市場と比べて短いにもかかわらず、1人当たり旅行支出は10万7,000円で、1日当たりの消費額を計算すると欧米市場と遜色ない購買力だといえます。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

訪日旅行需要が拡大する背景には日韓関係の改善や円安のほか、日本のアニメや映画、音楽などソフトコンテンツ人気も後押ししています。「以前はタブーだった日本歌手の歌もお茶の間に届くようになった点も大きい」と清水氏は解説します。

ほとんどが訪日旅行経験者であることや訪問地域に偏りがある点から、リピーターのさらなる獲得と消費額の拡大、地方誘客の促進に引き続き、全力を挙げるといいます。

韓国の人々の『心をつかむ→旅行計画を促す→送り出す』の好循環を目指す」を基本方針として、SNSなどを活用した情報発信、NAVERブロガーとのタイアップ、旅行博の出展や航空会社との共同広告などを行います。

関連記事:韓国市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

中東市場

続いて中東市場について、ドバイ事務所長の小林 大祐氏から解説がありました。

中東市場は、アラブ首長国連邦・オマーン・カタール・クウェート・バーレーン・サウジアラビアの6か国に、トルコとイスラエルを加えた8か国を重点対象国としています。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

特に中東6か国は世界でも有数の富裕層比率の高さを誇り、旅行消費額も大きいことが特徴です。訪日旅行経験者はほとんどいないのが現状ですが、JNTOの過去の調査では9割以上の人が「いつか行ってみたい」と回答。「現状とのギャップを埋めていくことが今後の課題」と小林氏は述べました。

2024年上半期の中東6か国からの訪日客数は約2万人で、徐々に増加傾向にあります。訪日旅行商品を取り扱う現地の旅行会社は増えつつあり、直行便数も2019年比で1.5倍に増加しており、今後の訪日客の拡大が期待できる市場だといえます。

今後の取り組みとしては、まずは旅行先としての日本の認知度を高めていくことが重要だといいます。ゴールデンルートを中心とした地域の自然・食・文化・歴史などについてSNSやオンライン媒体を活用して発信し、イベントや旅行博などを通じて現地旅行会社とのネットワークの構築を目指していきます。

関連記事:【海外に学ぶインバウンド戦略】海外からの観光客No.1の都市・イスタンブール(トルコ)から学べることとは?

タイ市場

続いてタイ市場について、バンコク事務所長の中杉 元氏から解説がありました。

タイからの訪日観光客数はコロナ前の9割まで回復。競合の一つが中国で、両国間の査証(ビザ)免除や移動コストの低さから人気が高まっています。

訪日旅行拡大に向けた懸念点として、定期航空路線の回復遅れが指摘されました。現状、航空便数がコロナ前の8割程度しか戻っていない状態であり、バンコク事務所としても航空会社などに働きかけを強化していく予定だといいます。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

タイの海外旅行経験者のうち約7割が訪日旅行未経験である一方で、訪日観光客の7割超がリピーターである点がタイ市場の大きな特徴です。

そこで、toC向けには「タイで見られない」「写真映え」「季節感(四季)」などをポイントに写真映えスポットなどをSNSで発信。

旅行会社などのtoB向けにはセミナーやイベントの開催、航空会社との共同広告などを通じて、新規顧客とリピーター双方の獲得を目指します。

関連記事:タイ市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

インド市場

続いてインド市場について、デリー事務所長の文野 領氏から解説がありました。

インドは約14億人の人口を抱える国ですが、パスポート保有者数は約9,600万人で、その中で2023年度に海外旅行をした人は約2,727万人だといいます。海外旅行需要自体は経済成長に合わせて増加しており、非常にポテンシャルのある国だといえます。

訪日観光客数はまだ多くはありませんが、2024年は2019年を上回るペースで推移。広島を含むゴールデンルートに加え、最近ではアルペンルートや北海道の人気も高まっています。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

海外旅行のピークはインド夏休みシーズンである4月〜6月と、ヒンドゥー教の新年と重なる10月〜11月です。訪日旅行においては3月の桜のシーズンも人気があります。

今後の訪日プロモーションとしては、ゴールデンルートに加え地方の魅力、桜の時期以外の魅力の訴求をより強化する予定です。BtoC向けのトラベルフェアや旅行会社との商談会など、現地でのオフラインの活動を中心に取り組みを進めていきます。

関連記事:インド市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

ベトナム市場

続いてベトナム市場について、ハノイ事務所長の松本 二実氏から解説がありました。

ベトナムの訪日需要は順調に推移していて、2023年は57万3,771人と過去最高を記録。2024年もその勢いは続いており、1月から7月までの累計訪日者数は38万1,500人(2023年同期比110%)となっています。ベトナム人は特に買い物への支出が大きく、2023年の1人当たり旅行消費額の買物代では全市場4位に位置しており、購買力が高いことも特徴です。

ベトナム人観光客はビザ取得が必須であるため団体旅行が主流で、ハノイ事務所の調べでは、現地の旅行会社の約150社が訪日旅行を取り扱っています。一般的にはゴールデンルートが売れ筋で、地方を含む周遊ツアーや「東京+北海道」など、ゴールデンルートと地方を組み合わせた商品も増えてきています。

今後の訪日プロモーション戦略としては、訪日旅行未経験者が約8割と多いことから、幅広いターゲット層を設定してプロモーションを設定。旅行博などのイベント出展などを通じて旅行会社に訪日旅行をアピールしていくといいます。

関連記事:ベトナム市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

シンガポール市場

続いてシンガポール市場について、シンガポール事務所長の白石 拓也氏から解説がありました。

シンガポール東南アジア諸国の中で群を抜いて経済力が高い市場で、訪日経験者が多いことが特徴です。訪日観光客のうち4分の3は、2回以上を訪れた経験があるリピーターだといいます。

旅行消費額は約29万円で、平均宿泊数も9日と他のアジア諸国と比べると長いため、地方訪問や商品単価増加に向けて、おすすめの市場だと白石氏は述べました。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

2023年には約59万人の訪日客数があり、2019年比で約20%増加し、過去最高を記録しています。ピークシーズンは学校休暇時期にあたる11〜12月です。

健康志向の高まりを受け、海外へのスキー旅行やサイクリングなども人気のアクティビティとなっています。また食への関心が非常に高く、特に日本食は人気が高いといいます。

シンガポール人の旅行手配方法は他の市場以上に、個別手配・オンライン手配にシフトしているといいます。OTAやインターネット直販は非常に重要で、「交通情報や商品とセットでPRすることが重要」と白石氏は述べました。

一方で、高所得者層に特化した専門の旅行会社もあり、年配の方には団体ツアーが引き続き人気という状況です。

プロモーションの取り組みとしては、訪日旅行経験の多い20~40代を中心に、オンラインでtoC向けの情報発信を強化。そのほか、国内最大規模のアニメフェアへの出展や高所得者層向けのイベントを開催するなど、1回当たりの旅行消費額単価のみならず、生涯旅行消費額の拡大を狙うといいます。

関連記事:シンガポール市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

フィリピン市場

続いてフィリピン市場について、マニラ事務所長の渡部 誠氏から解説がありました。

フィリピンは経済成長中の市場で、「ちょうど日本の高度成長期時代の入口にあるような状況」と渡部氏は解説。若い世代がビジネスの世界で活躍しており、海外投資も増えているといいます。

経済発展に伴い海外旅行需要も増加しており、FIT層が9割を占める一方で、インセンティブ旅行(社員旅行)の需要も大きくなっています。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

2023年の訪日客数は、コロナ前2019年の61.3万人を上回る62.2万人を記録。2024年も現在のペースを維持した場合、2023年を超えて過去最高となる勢いが見込まれています。フィリピン人が訪日する際には現在ビザが必要で、銀行残高証明や納税証明などを用意して大使館に申請する必要があり、「所得高めのスジ良しのお客様」であるといいます。

FITであっても旅行会社を通してビザを取得する必要があるため、旅行情報の発信・旅行商品の販売の両面で旅行会社が重要だといいます。

そのため今後のプロモーションとしては、現地での商談会の開催や旅行会社の招請、旅行会社向けの情報発信を強化していく予定です。

関連記事:フィリピン市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

インドネシア市場

続いてインドネシア市場について、ジャカルタ事務所長の畠中 環氏から解説がありました。

インドネシアからの訪日客数は、2023年にコロナ前を超えて過去最高の43万人を記録。2024年は7月末時点ですでに約29万人となっているため、年間50万人超えの期待が高まっています。

また2014年から、IC旅券取得者は事前登録によりビザ免除が可能になりました。2023年からは事前登録がオンラインで可能となったこともあり、訪日旅行需要を後押ししているといいます。

今後はインフルエンサーの活用や旅行博の出展などを通じて、人気のゴールデンルートだけでなく地方誘客を意識した情報の発信を強化します。ボリュームゾーンである20〜40代の中間所得者層をターゲットに誘客促進を目指すといいます。

関連記事:インドネシア市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

マレーシア市場

続いてマレーシア市場について、クアラルンプール事務所長の尾崎 健一郎氏から解説がありました。

マレーシア人にとって陸路で気軽に行けるタイインドネシアが人気で、近年はビザなし渡航が可能な中国への旅行も需要が高まっているといいます。日本は人気旅行先ランキングでは現状では7位で、2019年は約50万人が日本を訪れました。

マレーシア人の誘客促進に向けては、旺盛な旅行需要を持つ中華系に対してより細かなマーケティングをしていきたい考えだといいます。

市場全体の8割がFIT層であることから、SNSなどを活用した情報発信やオンライン広告、旅行博などでtoC向けの情報発信を強化していきます。また人口の7割を占めるムスリム層については、彼らが安心して旅行できるよう、ムスリムフレンドリーな旅行に関する情報を引き続き発信していきたいと述べました。

関連記事:マレーシア市場の最新インバウンドデータを徹底解説【2024年上半期】

中国市場

続いて中国市場について、北京事務所長の佐藤 絵美子氏、上海事務所長の山田 泰史氏、広州事務所長の原口 健司氏、成都事務所長の佐藤 仁氏から解説がありました。

2023年1月の中国側の水際措置廃止後、訪日客数は順調に回復し2023年8月には約36万人を記録。冬頃から増加傾向に勢いが出てきており、2024年8月の訪日者数は74.6万人となっています。

中国からの訪日客数の推移:日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計より訪日ラボ作成
▲中国からの訪日外客数の推移:日本政府観光局(JNTO)訪日外客統計より訪日ラボ作成

一方で、中国からの直行便数はコロナ前の約7割強(7月末時点)であり、特に地方便の回復が遅れている状況です。そのためコロナ前と比べて地方への訪問者数が大きく減少しており、地方誘客を図る上でも地方への復便が喫緊の課題となっています。

中国人観光客の特徴として、コロナ前と比べるとリピーター率が上昇し、FIT層も大幅に増加しているなどの変化が見られています。

個人旅行の増加に伴い「圧倒的に中国独自のSNS微博微信小紅書など)による情報収集が増加している」と述べました。一般のユーザーによる発信はもちろん、OTAや航空会社のライブ配信による、旅行商品の販売も盛んに行われているといいます。

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

今後は、最大ボリューム層である20代~40代をターゲットに、訪日経験者と高所得者層の地方誘客を促進するといいます。

リピーターには自然伝統文化・食を中心としたコンテンツを発信し、高所得者層に向けては付加価値の高い日本の魅力を訴求して旅行消費額単価の向上を狙います。

具体的には、SNSインフルエンサーを活用したtoC向けの情報発信を強化するか、toB向けには商談会の開催や旅行会社メディア招請を行い、ターゲットに向けたアプローチを進めていきます。

関連記事:

トークセッション「群馬県のインバウンド施策に見る自治体の地方誘客戦略」

フォーラム2日目には、インバウンド誘客を積極的に行う地方自治体の取り組み事例を紹介するトークセッションも開催されました。 群馬県産業経済部戦略セールス局観光魅力創出課長の松本 佳祝氏が登壇し、JNTO 地域連携部長 大川戸 修二氏とともに、持続可能な観光地の実現に向けた具体策について紹介しました。

関連記事:【群馬編】インバウンド どこから来て、どこへ行く?訪日客の周遊実態調査

滞在長期化・消費額拡大へ

松本氏は群馬県の観光について、温泉や豊かな自然などが魅力としつつ、「旅行者は多いのに、消費額は低い」状態だと話します。

そこで滞在長期化と消費額の拡大に向けて、インバウンドの受け入れを促進する必要があるとしています。

一方で、群馬県の2023年の外国人宿泊者数は31万人となり過去最高を記録したものの、全国順位では28位でした。松本氏は現状について、インバウンド誘客の課題として海外認知度の低さを挙げました。

そのほかにも、欧米富裕層向けの観光コンテンツ不足やインバウンドに対する受入環境が整備されていない点も大きな課題だといいます。

インバウンド誘客の取り組みとJNTOの活用方法

松本氏は海外認知度を向上していくうえで、WebサイトSNSによる情報発信が重要だと強調しました。

Webサイトは多言語にも対応し、SNSWebサイトを補完するツールとして、FacebookInstagramなどで旬の情報をタイムリーに発信しているといいます。

またSNSのコメントやメッセージ機能を積極的に活用し、直接ユーザーとやりとりすることで誘客促進につなげられていると話しました。

松本氏はSNSについて、JNTOの支援も活用したと話しており、そのほかのJNTOの活用事例とともに紹介されました。

JNTOの活用事例1:SNSでの情報発信

群馬県では、韓国に向けた事業が停止してしまっていた期間があり、プロモーションのノウハウがない状態だったといいます。そこで韓国語Instagramについては、JNTO ソウル事務所から効果的な発信方法についてアドバイスを受けながら運用を開始したとしています。

また英語SNSでは、JNTO主催の縦型ショート動画事業に参加したことで、本格的にショート動画の投稿を開始した結果、開始後すぐにユーザーのコメントが増加したといいます。

松本氏は、群馬県ではJNTOの情報発信やノウハウを積極的に活用することで、事業に役立てられていると語りました。

JNTOの活用事例2:現地旅行会社へのアプローチ

JNTOのバンコク事務所が開設した、タイ旅行会社向けBtoBサイトに群馬県も参加し、現地の旅行会社に情報を直接届けられる手段を増やすことに成功したといいます。

群馬県タイからの訪日客が多く、主要ターゲットの一つに設定しているなかで、現地旅行会社へのアプローチができたことで、誘客につなげられたと松本氏は述べました。

JNTOの活用事例3:人材育成

群馬県では、これまでにJNTOへ職員を派遣していたこともあり、派遣地で得た経験を事業に還元できているといいます。

派遣によって得られた知見は現在も群馬県インバウンド施策に反映されているとしており、松本氏は「JNTOへの派遣は人材育成という面でも大変に有効だった」と述べました。

パートナー施設登録制度及びMaaSの活用

松本氏は、群馬県が「リトリートの聖地」を目指していくうえで、外国人旅行者の滞在長期化や消費額拡大が必要だとあらためて語りました。そのうえで鍵になるのが、滞在日数が比較的長く、富裕層も多い欧米豪市場だといいます。

そこで受入環境の整備として、パートナー施設登録制度や、MaaSを活用した取り組みを進めていると説明しました。

パートナー施設登録制度では、インバウンド誘客に取り組んでいる県内観光事業者を「パートナー施設」として登録し、受入環境整備のサポートや最新情報の提供などを行っているといいます。

また2次交通の利便性向上については、MaaSを活用しているといいます。インバウンド向けの交通デジタルチケットを販売予定(販売開始は2025年)で、来県した外国人旅行者がストレスなく旅行ができる体制を構築していると語りました。

今後の取り組みの方向性と課題

外国人誘客に向けた今後の取り組みについては、下記の基本戦略に基づき、取り組みを進めていく予定だと語りました。

  • 持続可能な観光地域作りのための基盤整備
  • 魅力ある観光コンテンツの創出
  • ターゲットに応じた戦略的なプロモーション
  • 地域連携 / 県を超えた取り組み
  • 専門人材の育成

まずは、案内表示などの多言語化や、インバウンド誘客に取り組む観光施設への支援を強化し、外国人旅行者がストレスなく楽しめる環境基盤を整備するとしています。

さらに既存のコンテンツを磨き上げ、新たな観光コンテンツの創出にも注力し、外国人旅行者の長期滞在を促進するといいます。

松本氏は、JNTOとも引き続き協力しながら、欧米豪の新市場や実績のあるアジア圏をターゲットに、各市場の特性に応じた効果的なプロモーションを展開していくと語りました。

トークセッション「インバウンドにおけるMICEの価値創造」

フォーラムの後半では、MICEに関わるトークセッションも開催されました。

札幌国際プラザ コンベンションビューロー部長の荻 麻里子氏とJNTO MICEプロモーション部長の巽 麻里子氏が登壇し、MICEのメリットや取り組み事例を紹介しました。

左から、札幌国際プラザコンベンションビューロー部長 荻 麻里子氏、JNTO MICEプロモーション部長 巽 麻里子氏:インバウンド旅行フォーラムにて訪日ラボ撮影
▲左から、札幌国際プラザ コンベンションビューロー部長 荻 麻里子氏、JNTO MICEプロモーション部長 巽 麻里子氏:インバウンド旅行フォーラムにて訪日ラボ撮影

MICE誘致のメリット

冒頭では、JNTOの巽氏からMICEに取り組むべき理由が3点紹介されました。

1点目として挙げられたのは、経済的波及効果の高さです。大規模イベントや国際会議を誘致すると、会場費や機材費、レセプションパーティー費など様々な経費が発生します。さらに視察旅行が発生すれば、開催地以外にも経済効果を広げられる点もメリットだといいます。

2点目として、新規顧客を開拓できる可能性について言及されました。MICEが日本で開催された場合、参加者は関心の有無にかかわらず来日することになります。来日後に好印象だった場合、観光客としてのリピーターの獲得にもつながるといいます。

3点目には、レガシー効果が挙げられました。たとえば国際会議の開催に合わせた市民講座を開催した場合、一般市民にもその分野の知識などを周知できるといいます。

また会議を通して、海外の著名な研究者や企業と出会う機会も増加するため、将来的な共同研究やイノベーションなどに発展する効果も期待できます。

関連記事:JNTOの今後の方針は?MICE・日米観光交流年・地域連携 ほか【メディアブリーフィング2024年7月】

日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

MICE事例「ASEANTA 2024年度年次総会in札幌」

次に、札幌国際プラザ コンベンションビューロー部長の荻 麻里子氏が、2024年5月に札幌で開催された「ASEANTA総会」について詳細を説明しました。

ASEANTAとは、ASEAN10か国にある政府観光局ホテル・航空会社などからなる旅行業界団体で、各国の旅行業において大きな影響力のある人々が集います。

JNTOシンガポール事務所の仲介などもあり、今回、ASEAN諸国以外で初めての開催が実現。雪のない北海道を味わってもらうために、開催時期を5月に設定し、4つのテーマに沿ったユニークなプログラムで北海道の魅力を訴求しました。

荻氏は「国際会議を誘致した結果、地域にいいインパクトが生まれてうれしい。今後はプレイヤーを広げながら価値を高めていきたい」と述べました。

以降は、ASEANTA総会in札幌で行われた具体的な取り組みを紹介します。

▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋
▲日本政府観光局(JNTO)配布資料より抜粋

テーマ1:食

ウェルカムディナーには、国指定重要文化財であり、北海道開拓時代から現存する日本最古の木造のホテルだった洋館「豊平館」を利用。アイヌ文化に精通したイタリアンのミシュランシェフと共にメニューを考案したといいます。

ポイントとして、必ずしも伝統料理に縛られなかったことが挙げられました。

自然の恵みをいただくアイヌ文化の知恵を「北海道ガストロノミー」として伝えることに注力し、アイヌの伝統をモダンな料理の中で参加者に伝えていきました。

テーマ2:音楽

札幌は知る人ぞ知る音楽の街だといいます。

毎年、夏の1か月間、世界三大国際教育音楽祭のひとつ「パシフィックミュージックフェスティバル(PMF)」を開催。世界中から若手音楽家が集まり、オーケストラとして音楽を作り上げます。30年続いているイベントで、音楽愛好家には有名である一方で、観光と結びついていないという課題がありました。

そこでASEANTA総会in札幌では、PMF修了生と札幌交響楽団によるオリジナル編成楽団を結成し、その日限りの特別演奏を披露して「音楽の街・札幌」をアピールしました。

テーマ3:人

GALAディナーでは、会場の装飾・音楽・食事・ドリンク(カクテルやモクテル)・パフォーマンスなどについて、札幌在住の若手アーティストに協力を依頼しました。

彼らの活動や取り組みをASEAN旅行業界のトップ層に披露して理解を深めることで、ビジネスにつながる機会創出を狙ったといいます。

テーマ4:サステナビリティ

会場装飾に利用した1,700本の草花を廃棄せず、総会終了後に地域の幼稚園や医療機関などに配布したといいます。装飾などを担当したアーティストと協力して、子どもたちや高齢者と花飾りやブーケを作るなど、資源を無駄にしないロスフラワーゼロを目指す会議のあり方を提案しました。

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訪日ラボ編集部

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