日本政府観光局(JNTO)が毎月発表している訪日外客統計によると、2024年3月の訪日外国人数は初の単月300万人を突破し、2019年同月比11.6%増を記録しました。東京や大阪、京都などの人気観光地はもちろん、地方を訪れる訪日客も増加しています。
各自治体では、観光業の具体的な方向性を示した「観光振興計画」を策定するなど対策を強化。拡大する旅行需要に合わせた取り組みを進めています。
訪日ラボでは過去9回にわたり、47都道府県が発表している観光振興計画の詳細を、特にインバウンド市場に着目してお届けしてきました。シリーズ最終回となる今回は、総集編として各地域ごとの観光振興の特徴をまとめていきます。
自身が住んでいる地域、そしてほかの地域のインバウンド戦略について気になっている担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
- 連載1回目:【首都圏編】インバウンド分野の基本方針や具体的な取り組みとは
- 連載2回目:【関西編】2025年の万博開催、そしてその先へ向けた各県の取り組みは
- 連載3回目:【北海道編】北海道総合開発計画を踏まえた「世界トップクラス」の観光地域づくりとは
- 連載4回目:【東北編】震災復興とコロナ禍を経て、各県の次なる取り組みとは
- 連載5回目:【中国・四国編】外国人観光客への認知拡大が課題の中国・四国。需要拡大の波に乗るための各県の施策とは
- 連載6回目:【九州・沖縄編】ゴールは地域経済の発展。持続可能な観光立県に向けた取り組みとは
- 連載7回目:【北陸編】広域連携で周遊促進。訪日客への知名度向上を目指す各県の取り組みとは
- 連載8回目:【北関東・甲信越編】地域資源の活用と観光の高付加価値化を目指す各県の取り組みとは
- 連載9回目:【東海編】ブランド力向上とゴールデンルートからの誘客を狙う各県の取り組みとは
- 連載10回目:【総集編】地域ごとに特色のある観光振興計画、各地の特徴と傾向とは?
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観光振興計画とは?
観光振興計画とは地域の観光政策の方向性を示す計画書のことで、目指す将来像、基本的な方向性、数値目標、実施計画などが明記されています。目標に向けたアクションプランを具体化することで、観光業の振興と地域経済の活性化を図ることが目的です。
策定は各自治体の任意で行われ、都道府県だけでなく市町村が独自に策定するケースも多くあります。
観光振興計画についてより詳しく知りたい方は、「観光振興計画とは?民間事業者がチェックすべき内容とコロナ禍での変化について紹介」もご確認ください。
「首都圏」の観光振興計画の特徴
首都圏圏編では、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の4自治体を紹介しています。
2023年の外国人延べ宿泊者数トップの東京都を筆頭に、外国人旅行客が最も多く訪れる首都圏エリア。コロナ禍後の需要回復は、どの地域よりも順調に進んでいる様子です。
4都県の観光振興計画によると、各県ともデジタルマーケティングなどによるプロモーション活動に注力。これまで需要の多かったアジア圏以外にも、欧米豪の新しい市場をターゲットにした戦略的な情報発信を実施しています。また、政府や企業、関連団体と協力しながら観光DXを推進。観光事業の収益性の向上に積極的に取り組んでいます。
例えば東京都の観光振興計画では、プロモーション施策や受入環境の整備と合わせて、観光事業者の収益力向上に向けた支援を積極的に実施。人材の確保と育成、ICTを活用した事業効率化などを都が積極的にサポートしています。
首都圏4都県の観光振興計画の詳細は、「【首都圏編】シリーズ『観光振興計画を読む』第1弾」をご確認ください。
「関西」の観光振興計画の特徴
関西(近畿エリア)編では、大阪府、京都府、滋賀県、兵庫県、奈良県、和歌山県の6自治体を紹介しています。
2023年の外国人延べ宿泊者数ランキングで大阪府が2位、京都府が3位にランクイン。外国人観光客に特に人気のエリアで、オーバーツーリズム対策を含めた受入環境の整備が急務とされています。
各府県の観光振興計画の多くが、2025年に開催予定の大阪・関西万博と連動したプロモーション策を計画の柱に設定。地域資源を活かした体験型の観光コンテンツの開発やターゲットに合わせた情報発信を強化し、ターゲット市場からの誘客促進を狙います。
例えば大阪府の観光振興計画では、目指す姿(ビジョン)を「魅⼒共創都市・⼤阪」と定め、万博を契機とした発信強化など、各種取り組みを推進。行政・事業者・住民が一体となり、観光客にも住民にも魅力的な都市づくりが進められています。
京都府の観光振興計画では、「交流」と「持続性」の二つを基本方針に設定。地域との交流が深まる機会や付加価値の高い観光コンテンツの提供により、観光を通じて地域が良くなる「持続可能な観光」の実現を目指します。
関西圏2府4県の観光振興計画の詳細は、「【関西編】シリーズ『観光振興計画を読む』第2弾」をご確認ください。
「北海道」の観光振興計画の特徴
北海道はニセコエリアや美瑛町などを中心に、インバウンド需要が急拡大。2023年には東京、大阪、京都に次いで全国で4番目に多くの外国人延べ宿泊者数を記録しています。
観光振興計画では、オーバーツーリズム対策も進めながら、経済活動と自然環境、文化が共生する「持続的な観光」の構築を目指した取り組みを実施。アドベンチャートラベルなど、北海道の自然を生かした観光商品の開発やマーケティングを進め、「観光立国北海道」を目指します。
北海道の観光振興については、政府が定める「北海道総合開発計画」の内容も大きく関係します。「【北海道編】シリーズ『観光振興計画を読む』第3弾」では、観光振興計画と北海道総合開発計画の詳細をまとめています。ぜひご確認ください。
「東北」の観光振興計画の特徴
東北エリア編では青森県、岩手県、秋田県、山形県、宮城県、福島県の6自治体を紹介しています。
東日本大震災の復興とコロナ禍後の需要回復を目指す東北地域。風評被害の払拭や認知度向上に向けて、継続的な情報発信とプロモーション活動が必要とされています。
東北では人口減少問題などが深刻な地域も多く、地域活性化策の柱として観光振興に取り組む県が多いことも特徴です。サステナブルツーリズムの推進や体験型コンテンツの拡充、事業者支援などを通じて地域に人を呼び込み、稼げる観光業の確立を目指します。
例えば岩手県では、「三陸振興」「震災伝承」「地場産業の振興」を観光振興計画の一部と捉え、分野の垣根を越えた横断的な取り組みを実施。地域全体で魅力の掘り起こしと情報発信を強化しています。2023年にはニューヨーク・タイムズ紙が発表した「2023年に行くべき52か所」の2番目に盛岡市が選出されました。
東北6県の観光振興計画の詳細は、「【東北編】シリーズ『観光振興計画を読む』第4弾」をご確認ください。
「中国・四国」の観光振興計画の特徴
中国・四国編では、広島県、岡山県、鳥取県、島根県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県の9自治体を紹介しています。
2023年の外国人延べ宿泊者数は、全国ランキング40位以下を中国・四国の5自治体が占めており、外国人観光客への認知度向上がエリア全体の課題です。
各県の観光振興計画では、大阪や京都、福岡など、外国人に人気の高い観光地からの誘客を目指す動きが多い点が特徴。大阪・関西万博と連動したプロモーション、DMOや近隣自治体との連携などを通じて、エリア全体での誘客と広域周遊ルートの構築を目指しています。
例えば2023年の外国人延べ宿泊者数が全国最下位の島根県では、海外からの直接的なゲートウェイがないことを課題として、市場調査やマーケティングを強化。ターゲットに合わせたプロモーションの強化に取り組みます。県としての観光振興計画はなく、観光を含めたさまざな分野の施策方針をまとめた「島根創生計画」を策定。「力強い地域産業づくり」の一つとして観光振興に取り組んでいます。
中国・四国9県の観光振興計画の詳細は、「【中国・四国編】シリーズ『観光振興計画を読む』第5弾」をご確認ください。
<参照>
「九州・沖縄」の観光振興計画の特徴
九州・沖縄編では、福岡県、大分県、佐賀県、長崎県、熊本県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県の8自治体を紹介しています。
福岡や沖縄など多くの外国人が訪れる地域では、自然保護やサステナブルツーリズムの観点における取り組みを強化。拡大するインバウンド需要に合わせた受入環境の整備も急務です。一方、宮崎や佐賀などでは海外での認知度向上と人気観光地からの誘客が課題。需要の高いアジア圏からの誘客を強化するとともに、欧米豪などの新しい市場に向けた戦略的なプロモーションが進められています。
大分県では、「日本一のおんせん県おおいた」のブランド推進に取り組んで10年が経過。地域資源を活かした新しい観光コンテンツの開発やSNSを活用した情報発信などを強化して、外国人の誘客に積極的に取り組んでいます。
九州・沖縄8県の観光振興計画の詳細は、「【九州・沖縄編】シリーズ『観光振興計画を読む』第6弾」をご確認ください。
「北陸」の観光振興計画の特徴
北陸編では、石川県、福井県、富山県、新潟県の4自治体を紹介しています。
2024年1月に発生した能登半島地震の影響で、観光需要は一時、減少しましたが、その後、北陸全体で見ると順調に回復しています。しかし、被害の大きかった地域では観光ができる状態ではないエリアも残っており、震災復興と風評対策が急務です。
各県の観光振興計画では、北陸新幹線などを活用した周遊観光の促進と海外での認知度向上などを重点施策に位置付けて取り組みを推進。近隣県や首都圏との広域連携を図るとともに、ターゲット市場に合わせた積極的なセールス活動やプロモーション施策を計画しています。
石川県では、北陸新幹線沿線の自治体と連携した周遊パス(北陸アーチパスなど)を活用し、新たなゴールデンルートを構築。交通アクセスの良さを活かした誘客促進を目指しています。
北陸4県の観光振興計画の詳細は、「【北陸編】シリーズ『観光振興計画を読む』第7弾」をご確認ください。
「北関東・甲信越」の観光振興計画の特徴
北関東・甲信越編では、群馬県、栃木県、茨城県、山梨県、長野県の5自治体を紹介しています。
東京からのアクセスもよく、食や自然など特色溢れる北関東・甲信越エリア。インバウンドを含めた観光需要は順調に推移していますが、日帰り客が多い点など課題もあります。そこで各県の観光振興計画では、新しい観光コンテンツの開発や二次交通の利便性向上を推進。観光客の長期滞在化と観光の高付加価値化を実現し、観光消費額の増加を目指しています。
長野県では、ワインツーリズムやアドベンチャーツーリズムなど、特色ある観光資源を活かした観光コンテンツを開発。地域の特色を活かした観光のブランド化を進め、合わせてプロモーション施策にも注力しながら国内外を問わず誘客促進に取り組んでいます。
北関東・甲信越5県の観光振興計画の詳細は、「【北関東・甲信越編】シリーズ『観光振興計画を読む』第8弾」をご確認ください。
「東海」の観光振興計画の特徴
東海編では、愛知県、岐阜県、三重県、静岡県の4自治体を紹介しています。
いわゆるゴールデンルートに含まれる愛知県や、サステナブルツーリズムのメッカとして人気の高まる岐阜県など、外国人の知名度も高い東海地域。受入環境の整備や地域連携による戦略的なプロモーション活動などで、広域周遊観光の促進と高付加価値旅行者の誘客を目指します。
岐阜県では、地域全体で観光ブランディングを推進するための活動を県が支援。高付加価値コンテンツの造成を推進し、「観光で稼げる地域づくり」を目指しています。また、デジタルマーケティングによる各種取り組みを積極的に行っています。
三重や静岡では、愛知や岐阜と比べて宿泊客が少ないなどの課題があるため、現地オペレーターへのセールス活動なども重点施策の一つです。
東海4県の観光振興計画の詳細は、「【東海編】シリーズ『観光振興計画を読む』第9弾」をご確認ください。
<参照>
「『低予算』でも自治体ブランディングに成功したワケ 世界が認めるサステイナブルな観光地・岐阜県の挑戦」
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