2021年観光白書徹底解説 7. 2021年より実施する政策 観光資源整備・業界改革編

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2021年6月15日、令和3年版(2021年)観光白書が発表されました。

訪日ラボでは、全10回にわたりこの観光白書を基に説明しています。

第7回となる今回は、「第Ⅳ部第2章第1節 外国人が真の意味で楽しめる仕様に変えるための環境整備」から「観光資源整備・業界改革編」と題し、観光庁の取り組みについて紹介します。(一部第3節も含みます。)

この記事では、優れた景観の保全と活用から始まり、観光経営人材の育成と強化、DMO(観光地域づくり法人)を核とする観光地域づくりなどをみていきます。

訪日需要が回復する時期を見据えた政府の取り組みでは、インバウンド客を満足させる観光資源の整備だけでなく、DMOJNTO(日本政府観光局)の強固な連携も非常に重要です。

この記事では観光資源を有効活用した政府のこれからの取り組みや、観光経営人材の育成などを踏まえて、新たに観光振興を図ることを狙いとします。

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1. 景観の優れた観光資源の保全・活用による魅力向上

政府が講じる施策の観光資源面の1つ目は、景観の優れた観光資源の保全、活用と地域資源を生かした観光産業の振興です。

また、国営公園における魅力的な観光資源を活用するため、案内サインや発券機の多言語化などの環境整備をはじめ、周辺の観光資源と連携したインバウンド客向けガイドツアーの開催、国営公園事業である首里城の復元に向けた取り組みも進めていくということです。

以下では優れた景観形成に向けた取り組みや、美しい自然の景観を生かした観光振興についてみていきます。

《注目ポイント》

  • 街並みの質の向上に向けた無電柱化の促進
  • 森林景観を生かした観光資源として国有林を整備

景観計画などの策定および無電柱化の促進

ここでは、観光地の魅力ある景観づくりとそれらを維持していくための取り組み、支援についてみていきます。

観光白書では、歴史的な街並みや自然景観など、地域の個性や特性を活かした景観形成を目的とした「景観改善推進事業」の実施を通じ、観光地における景観計画やそれに基づく重点的な景観形成の取り組みを促進し、国内外の観光客にとって魅力あるものにするとしています。

また、歴史的な街並みの阻害を防止するため、歴史まちづくり法地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律)を通して、同法律の重点区域などで無電柱化を推進していくとしています。

無電柱化については、観光地などにおける良好な景観の形成や観光振興のため、「新設電柱の抑制」「徹底したコスト削減」「事業のスピードアップ」を基本方針とした上で、2021年5月には「無電柱化推進計画」、また京都府では「京都府無電柱化推進計画」が策定されています。

京都府無電柱化推進計画内では無電柱化の目的として、以下の3つが挙げられています。

  • 防災対策
台風や台風や地震などの災害で電柱が倒壊した場合、道路が閉塞され緊急車両の通行に支障を与えないよう、電線の地中化などによる無電柱化によって、防災機能の向上を図ります。
平成30年台風第21号(京都広河原美山線)、東日本大震災:京都府無電柱化推進計画
▲平成30年台風第21号(京都広河原美山線)、東日本大震災:京都府無電柱化推進計画
  • 安全・円滑な交通確保

電柱が歩行者や自転車、車いすの通行の妨げとなる箇所において、歩道を広く使え、ベビーカーや車いすの人など誰もが安全で利用しやすくなるよう、電線の地中化などによる無電柱化によって、歩行空間のバリアフリー化を図ります。

電柱の撤去により幅の広い歩道を整備(イメージ):京都府無電柱化推進計画
▲電柱の撤去により幅の広い歩道を整備(イメージ):京都府無電柱化推進計画

  • 景観形成・観光振興

地域の良好な景観を阻害している電線については、地中化などによる無電柱化で、美しい街並みの良好な景観の形成を図ります。

宇治橋通り:京都府無電柱化推進計画
▲宇治橋通り:京都府無電柱化推進計画

景観形成に関しては、歴史的建造物を含めた歴史的な街並みの質を向上させるため、歴史的な街並みを阻害する建築物、空地などの美装化、緑化、除却に対しての支援を行うとしています。

無電柱化を通して、視覚だけで旅行客を魅了するだけでなく、機能面でも魅力ある観光地にしていくという姿勢が伺えます。

美しい自然・景観などの観光への活用

ここからは日本の美しい森林景観を生かした、景観整備と観光資源の活用についてみていきます。

林野庁では国有林野のうち森林浴や野外アクティビティ、キャンプなどに適した国有林を「レクリエーションの森」として設定しています。

このうち、様々な理由で観光の場としての利用が期待される93箇所を「日本美しの森 お薦め国有林」に選定し、訪日外国人を含む利用者の増加を図るため、ウェブサイトなどによる魅力発信の他、案内言語の多言語対応、利用者の安全確保やワーケーション環境を整備し、さらに多くの関心を集めるため魅力を伝えるPR動画を国内外に向けて発信します。

林野庁の国有林を広めるための取り組み事例には、人気アニメ「ゆるキャン△」シリーズとコラボし、国有林の魅力やキャンプ場に関する情報をまとめたガイドブック「いちおしの森&キャンプBOOK」を作成しました。

林野庁によると、「日本美しの森 お薦め国有林」にある7つのキャンプ場の情報をはじめ、登山や温泉など周辺の観光地の見どころ、森林内でのルールやマナーを掲載しており、持ち歩き可能なミニガイドブックとして利用できるということです。

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奄美群島や小笠原諸島における観光産業の振興

ここでは離島(奄美群島および小笠原諸島)の特性を生かした、観光振興に関する同地域の主体的な取組みについてみていきます。

奄美群島では2021年7月26日には国内で5例目となる世界自然遺産に、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島の登録が決定しました。コロナ禍が収束した際には、この世界遺産登録で訪日需要の増加が期待されます。

そこで政府は奄美群島には、奄美および沖縄の世界自然遺産登録を見据えた観光振興のため、旅行者へのPR、沖縄などからの航路、航空路の特別運賃割引への支援など、地方公共団体が実施する各種施策に対しての支援に取り組みます。

また小笠原諸島においては、関係地方公共団体が実施する港湾の整備や自然公園の施設整備、改修や訪日外国人の実態、ニーズの調査などの各種政策に対して支援を行うということです。

なお、離島、半島地域にある資源を活用した新たな観光振興は、特に離島では離島地域にある資源を活用するとともに、未来を担う若者や訪日外国人旅行者らが離島へ向かう流れをつくる「島風構想」を推進するとしています。

関連記事:「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が世界自然遺産に登録 4年の歳月を経て

2. 民間のまちづくり活動:「観光・まち一体再生」の推進

政府は民間のまちづくり活動を通じて、不足する宿泊施設や観光バス乗降場などの整備とともに「観光・まち一体再生」の推進に取り組むとしています。

2016年に国土交通省で策定された「明日の日本を支える観光ビジョン」では、大都市を中心として「民間都市開発に合わせたホテル整備」と「都市再生プロジェクトにおける観光バス発着場等整備」を目指すべき将来像に掲げています。

また地方都市を主とした「空きビルのホテルへのリノベーション」では、主に地方都市の魅力向上を目指し徹底したマーケティングに基づき、まちづくり会社が空きビルをホテルへと再整備するということです。

ここからは、Park-PFI事業の事例と占有特例制度の事例についてみていきます。

《注目ポイント》

  • 観光バスの駐停車対策
  • 民間資金とPark-PFI制度を活用した、観光拠点となる公園の整備

民間資金を活用した都市公園内の整備

政府は、公募設置管理制度Park-PFI)の普及活動などを通じて、民間資金を活用した地域の観光拠点となる公園の整備を推進するとしています。

ここでは都市公園の占用許可の特例と、Park-PFIの事例についてみていきます。

占有許可の特例は、通常、都市公園の占用は、一定の物件又は施設による占用に限って許可され、公衆の利用に著しい支障を及ぼさず、かつ、必要やむを得ない場合などにしか許可されません。

しかし、都市の利便性の向上や、居住者や来訪者、滞在者の居住環境の向上に寄与するために必要な場合であれば、都市再生整備計画に位置づけた施設については、一定の要件を満たすと、公園の占用許可の特例を受けることができます。(国土交通省の都市公園の占有許可の特例より引用)

居住者、来訪者などの利便の増進に寄与する施設として代表的なものにサイクルポートや、観光案内所などが挙げられます。

活用実績には、2017年に姫路市が開始した姫路公園内におけるサイクルステーションの整備や、「HELLO CYCLING」を運営するOpen Street株式会社が2020年度に専用主体となって開始した、千葉市を公園管理者とするシェアサイクル事業などがあります。

続いて、Park-PFI公募設置管理制度です。

Park-PFI公募設置管理制度)の特徴として、国土交通省都市局の「公募設置管理制度Park-PFI)について」によると、都市公園において飲食店、売店などの公園施設(公募対象公園施設)の設置、または管理を行う民間事業者を公募により選定する手続きがあります。

加えて、事業者が設置する施設から得られる収益を公園整備に還元することを条件に、事業者には都市公園法の特例措置がインセンティブとして適用されます。

同制度の活用実績には、同事業初の国営公園の開業として、「滞在型レクリエーション拠点」に福岡市東区の「海の中道海浜公園」の整備が挙げられます。

滞在型レクリエーション拠点(イメージ):三菱地所株式会社、積水ハウス株式会社、一般財団法人公園財団、株式会社オープン・エープレスリリース
▲滞在型レクリエーション拠点(イメージ):三菱地所株式会社、積水ハウス株式会社、一般財団法人公園財団、株式会社オープン・エープレスリリース

この事業は三菱地所株式会社、積水ハウス株式会社、一般財団法人公園財団、株式会社オープン・エーの4企業によって計画が進められています。

民間と政府との連携によって占用特例制度をはじめ、Park-PFI制度を活用した官民連携の事業など都市の利便性や、利用客の満足度を高める動きが着々と進んでいます。

関連記事:「パーク・ツーリズム」の実現へ、滞在型レクリエーション拠点が2022年に福岡に開業

道路空間と観光の連携の推進

観光地での道路空間のスペース活用については、観光バスの駐停車スペースへの提言と、歩行者利便増進道路(ほこみち)制度の2点が挙げられています。

まず観光バスの駐停車対策では、地域が行う道路外における「空き空間」を有効活用した観光バスの駐停車スペースの確保に関する取組について支援するとしています。加えて、容積率緩和制度を活用することで、民間都市開発におけるバス乗降場の一体的整備を推進するとしています。

続いて、2020年11月25日に施行されたほこみち制度についてです。

ほこみち制度とは、賑わいのある道路を構築するための道路の指定制度で、同制度の普及促進については、新型コロナウイルス感染症拡大対策として各地方公共団体で実施された道路占用許可基準の緩和による道路空間の利活用のニーズ(「道路空間を街の活性化に活用したい」「歩道にカフェやベンチを置いてゆっくり滞在できる空間にしたい」)の顕在化が背景となっています。

国土交通省によると同制度には、構造基準と空間活用の2つの観点からメリットが挙げられるとしています。

  • 道路管理者が歩道の中に、“歩行者の利便増進を図る空間”を定めることができる。(構造基準)
  • 特例区域を定めることで、道路空間を活用する際に必要となる道路占用許可が柔軟に認められる。
構造基準に関することと空間利活用に関すること:国土交通省ほこみち
▲構造基準に関することと空間利活用に関すること:国土交通省ほこみち

観光庁では道路における賑わい創出と維持管理の一層の充実を図るため、道路協力団体による歩行者利便増進道路での活動を推進するとしています。

文化観光の推進のための受入環境整備

地域や風土に根差した日本の文化を観光資源として活用する方法は様々ありますが、文化観光を推進するための受入環境整備やまちづくりが全国で進められています。

地域の文化を観光資源として活用した事例には、鳥取県境港市出身の漫画家「水木しげる」作品の妖怪をモチーフにした観光まちづくりなどがあげられます。

文化観光を推進するための受入環境の整備は「文化観光拠点施設を中核とした地域における文化観光の推進に関する法律(以下、文化観光推進法)」に基づき、拠点計画及び地域計画が有識者委員会による審査を経て認定されます。

2021年5月時点で全国に40の地域、認定計画があり、同地点における多言語対応、Wi-Fi、キャッシュレス環境、バリアフリー化、感染症対策などの受入環境整備に関する取組を、2021年度を通して支援していくということです。

関連記事:観光資源とは「あるもの」ではなく「つくるもの」であることがよく分かる事例集その2:「妖怪」までもが観光資源!?地域の文化を活用した観光地域づくり

3. 宿泊業の生産性向上推進

《注目ポイント》

  • 生産性向上に向け、DX化やマーケティング能力の強化を実施

訪日需要が回復した際に多くの外国人旅行者を迎え入れる一方で、少子高齢化の加速などによって宿泊業従事者の人手不足が予想されます。

そこで観光白書では、優良事例を基とした生産性向上のノウハウを伝えることで、生産性向上を推進するとともに、地域の観光産業に従事する人材のスキルアップを図ることにより、生産性向上につなげるとしています。

また、デジタル化への取り組みによって生産性の向上を図った過去の優良事例を拡大するため、専門家の総合診断による現状分析や複数回のワークショップを通じて、顧客管理などにおけるDXデジタルトランスフォーメーション)の取り組みや、マーケティング能力の強化を促進していきます。

宿泊業の生産性向上推進事業として、観光庁は「宿泊業の生産性向上事例集」を公開しています。

同事例集には、マーケティング活動や人時生産性の向上、水光熱費の実態の把握と削減など、生産性向上に向けた様々な事例が掲載しています。

関連記事:東京都「アドバイザーを活用した観光事業者支援事業」/「観光業界における経営課題解決促進事業」実施

4. 産業界のニーズを踏まえた観光経営人材の育成・強化

インバウンド需要の回復に向けた日本の観光業の成長のためには、経営人材の育成も不可欠です。

観光客数が増加傾向にある沖縄県では、「観光の質向上」および「観光業の生産性向上」の実現を目指して、専修学校と産業界が連携し、観光業従事者を対象としたビッグデータに対応した観光人材育成プログラムの開発に取り組むとしています。

JNTO(日本政府観光局)では海外の旅行代理店の販売員の人材育成を進めるため、訪日旅行に関する知識の習得のためのe-learningウェブサイトの運営とともに、コンテンツの拡充や新規コースの導入を実施します。

また、ウェブサイト上で中国語(簡体字、繁体字)、韓国語の「訪日観光意見箱」を運用して、特にリピーターの多い東アジア地域(韓国、中国、台湾および香港)からの旅行者の訪日観光に関する意見や苦情に対応し、内容の収集、分析によって、更なる満足度向上を図るとしています。

ここからは、観光産業を担う人材の育成とクールジャパンインバウンド外国専門人材、通訳ガイド制度についてみていきます。

《注目ポイント》

  • 人材育成の強化に向け専門職大学を開講
  • クールジャパン外国人材に対する受入基準の緩和
  • 通訳士に関する認知が低い若年層をターゲット

観光の中核を担う人材育成の強化

地域観光の中核を担う人材育成の強化に向け、2020年度までに実施してきた社会人の学び直しのため、教育プログラムをより良く磨き上げるとともに提供を継続していきます。

また、観光分野を扱う専門職大学および専門職短期大学が2021年4月に開学することを踏まえ、これらの新設大学を含む専門職大学など(専門職短期大学、専門職学科を含む)に対し、必要に応じて助言をし、教育水準の維持と向上を図るとしています。

さらに進学を希望する生徒や保護者、高校教員に向け、専門職大学制度の認知度が高まるよう、ウェブサイト、パンフレット、動画配信などによるPR活動に引き続き取り組むということです。

クールジャパン・インバウンド外国専門人材の就労促進

日本では現在、国家戦略特区クールジャパン外国人材の受入を促進しようとしています。

政府は、外国人がクールジャパン産業に就職する際、在留資格で就労が阻まれることが懸念されているため、現行の在留資格に幅を持たせたりと法改正の検討に入っています。そこで国家戦略特区内でのクールジャパン外国人材の受入れについては現行の上陸許可基準に、10年の実務経験を国内外の資格や試験、受賞歴などで代替基準を設けることが可能となっています。

クールジャパン戦略はクールジャパンの、①情報発信②海外への商品・サービス展開③インバウンドの国内消費の各段階をより効果的に展開し、他国の成長を取り込むことで、日本の経済成長につなげることを狙いとしています。

内閣府の「クールジャパン戦略について」によると、同戦略ではクールジャパン関連産業の発展に必要な人材像として、各人材が6つのカテゴリーごとに分けられています。

  1. プロデュース人材(専門スキルとビジネススキルの両方を有する人材)
  2. 高度経営人材(産業の新たな価値の創出や生産性向上を実現する人材)
  3. 高度デザイン人材(製品、サービス開発の全体をデザインできる人材)
  4. 専門人材(クリエーター、料理人、デザイナーなど専門スキルを有する人材)
  5. 外国人材(外国人視点も踏まえ日本と海外でクールジャパンの提供基盤や市場拡大を支える人材)
  6. 地域プロデュース人材(地域のクールジャパン資源の発掘、磨き上げを担う人材)

過去の事例には、留学生に特化したインターンシップの実施や、入社後の定期的な外国人職員と上司との面談により、外国人職員(およびその候補)と企業側がお互いの文化、事情についての相互理解を深める取り組みがなされています。

通訳ガイド制度の充実・強化

訪日需要回復後を見据えた際に外国人旅行客の満足度向上、リピーター獲得のためには、様々な言語やニーズに対応する力が不可欠です。

政府は通訳ガイドに関する認知度が低い層に対して、SNSを用いた情報発信やワークショップを開催することにより資格取得やスキルアップを促し、訪日外国人旅行者の満足度向上や旅行消費額の拡大を図るとしています。

京都市認定通訳ガイドを育成する「京都ビジターズホスト」では、2015年よりガイドの募集と育成が行われており、同制度には約50名の定員に対し7~11倍の応募があり、毎年極めて高い倍率となっています。

対象言語は、英語、中国語、フランス語、スペイン語の4か国語で2018年からは、対象地域に宇治市と大津市が加わり、現在までに計202名が京都市ビジターズホストとして認定されています。そのほか、京都市観光協会によると更なる知識と技能の向上に向け、スキルアップ研修を年間20回程度行うことで、観光地などで研鑽を積んでいるということです。

全国通訳案内士の活用に当たっては人材の教育を行い、語学力や接遇能力などのインバウンド対応能力の向上に取り組みます。これに加え、全国通訳案内士及び地域通訳案内士の登録情報を管理するデータベースを管理、運用することで、通訳案内士の就業機会の確保と情報発信に取り組んでいくとしています。

関連記事
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5. MICE・IR誘致の促進:日本は過去10年間でMICE開催件数が増加傾向に

《注目ポイント》

  • 日本のMICE開催件数は過去10年間で46.0%の増加
  • IRの誘致はカジノに対する懸念の払拭に対策を講じる

ここでは、MICEIRの誘致の促進についての政府の取り組みをみていきます。

MICEとは、企業などの会議(Meeting)、企業などの行う報酬、研修旅行(Incentive Travel)政府主催会議、国際会議(Convention)展示会、イベント(Exhibition、Event)の4つの頭文字から成る造語で、これらのビジネスイベントの総称となっています。

MICEの開催は高い経済波及効果がもたらされ、観光庁が2020年11月に発表した「MICEの誘致・開催の取組について」の2016年のデータによると以下のようになっています。

  • 国際MICEによる経済波及効果:約1兆590億円
  • 新たに生じた雇用創出効果:約96,000人分
  • 税収効果:約820億円
  • 外国人参加者1人当たりの平均消費額:約33.7万円
国際MICE全体による経済波及効果(催事別):MICEの誘致・開催の取組について
▲国際MICE全体による経済波及効果(催事別):MICEの誘致・開催の取組について

参考までに観光庁の「訪日外国人の消費動向調査(2019年)」によると、訪日外国人1人当たりの平均消費額が約15.9万円であり、一般的な旅行よりもはるかに高い経済効果を生み出していることがわかります。

加えて、国際会議や展示会の機会を活用したネットワーク販路の拡大グローバル企業との共同研究や世界の先進的研究者との交流創出も、「ビジネス機会の創出」としてMICEがもたらす効果となります。

これらの効果からMICEの開催件数は年々増加しています。アジア太平洋主要国の国際会議開催件数をみると、日本の開催件数は過去10年間で361件から527件へと46.0%の増加となっています。

また世界的に見ても、アジア大洋州の主要国は年々開催件数を伸ばしてきており、コロナ禍の収束後に再び開催需要が高まっていくことが予想されます。

アジア大洋州主要国の国際会議開催件数(2010~2019):MICEの誘致・開催の取組について
▲アジア大洋州主要国の国際会議開催件数(2010~2019):MICEの誘致・開催の取組について

政府はMICEの誘致、開催に積極的ですが、そのノウハウが不足している地方都市に対しては、コンサルタントによるトレーニングプログラムを実施することで日本のMICE開催件数のさらなる底上げを図るとしています。

続いてIRについてみていきます。

2016年にIR推進法」が施行されて以降、2018年7月にはIR実施法案」も成立し、政府は段階的なIR誘致に注力しています。

また、政府はIRについて、カジノに対する様々な懸念に万全の対策を講じつつ、「特定複合観光施設区域整備法」に基づき、区域整備計画の認定などに向けた所要の手続を進めていくとしています。

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6. DMOとJNTO(日本政府観光局)の役割分担と連携強化

観光資源整備・業界改革編の最後は、DMO(観光地域づくり法人)の役割と取り組みについてみていきます。

DMOJNTOは連携の強化を図ること、そしてより効果的な観光資源の磨き上げや受入環境の整備などの着地整備に最優先に取りかかることが述べられています。

さらにDMO内外の人材やノウハウを取り込みつつ、多様な関係者と連携することで「観光による地方創生」につなげていきます。

そのために、KPIの適切な設定やPDCAサイクルの確立といった自律的な運営を目指す取組について、DMOに対する総合的な支援を関係府省庁が連携して実施するということです。

《注目ポイント》

  • 瀬戸内地域の観光業活性化にむけた「せとうちDMO」の取り組み
  • 各キャンペーンに対応した高付加価値な滞在コンテンツを全国各地域に創出

DMOを核とする観光地域づくりの推進

DMOに関する政府の取り組みでは、2020年4月に策定した「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」に基づくDMOの育成と支援を行います。

厳格化した登録要件に従うことでDMO全般の底上げを図るとともに世界に誇る観光地の形成を促していくということです。

また、DMOにおける人材の能力向上および育成を図るために、全国的な研修やシンポジウムなどを実施するとともに受講を支援します。

DMOネットなども活用することで各種研修、セミナー、シンポジウムなどの情報提供にも取り組んでいく見通しです。

観光庁の「DMOに関する取組みの現状について」のDMOへの人材支援によると、2016~17年の2年間で観光地経営をするための人材を育成する基礎、応用プログラムを策定しました。

人材のマッチングもシステム化することで、各地域でのDMOの設立、運営の強化を計画しています。

国内でのDMOの事例の一つに、複数の都道府県が連携して運営する広域連携DMOの「せとうちDMO」があります。

せとうちDMO(兵庫、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛の7県が合同)は、瀬戸内地域の観光産業活性化に取り組むため、官民連携で作られた組織です。

瀬戸内の魅力を国内外に向けて発信し、瀬戸内ブランドの確立、プロモーション、マーケティングなどに取り組んでいます。

地方公共団体・DMOとJNTOの適切な役割分担

各組織の適切な役割分担について、観光白書では訪日グローバルキャンペーンなどに対応したコンテンツ造成のため、高付加価値な滞在コンテンツを、地方運輸局とDMOが連携し全国各地域に生み出すとしています。

また着地整備に関する有効な取り組みについて、地方公共団体、DMOが作成したデジタルコンテンツをJNTOオウンドメディアで発信していくとしています。

それにより、地域に還元されるデータの精度がより向上する好循環の創出を目指すとしています。

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コロナ禍の収束後に向け、観光資源の磨き上げや着地整備に注力か

政府は訪日需要が息を吹き返す、コロナ収束時期を見据えて様々な取り組み、まちづくりをDMOや民間などの事業者と連携しながらの取り組みを掲げています。

美しい自然景観を生かした観光振興や、離島の特性を最大限に生かした観光振興など日本各地域の優れた観光資源を生かした様々な取り組みの実施、またそれらの各支援を行う姿勢が伺えます。

今後は観光産業の発展や訪日需要の増加に備えて、通訳ガイドの育成をはじめクールジャパン人材や観光経営人材などの、人材に焦点を当てた育成、教育がより求められていくと考えられます。

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<参照>
観光庁:「令和2年度観光の状況」及び「令和3年度観光施策」(観光白書)について
観光庁:DMOに関する取組みの現状について
観光庁:文化観光推進法に基づく拠点計画及び地域計画の認定について
観光庁:訪日外国人の消費動向2019年
観光庁:MICEの誘致・開催の取組について
京都市観光協会:通訳ガイドの域を超えた京都観光の担い手育成へ〜京都市ビジターズホスト、第4期生認定で計200名体制に〜
京都府:京都府無電柱化推進計画
国土交通省:明日の日本を支える観光ビジョン
国土交通省:都市公園の占有許可特例制度
国土交通省:歩行者利便増進道路制度とは
国土交通省:都市公園の占有許可の特例の活用実績
せとうちDMO:公式HP
内閣府:クールジャパン外国人材受け入れに係る制度や支援の仕組み等
内閣府:クールジャパン戦略について
三菱地所株式会社、積水ハウス株式会社、一般財団法人公園財団、株式会社オープン・エー:プレスリリース
林野庁:プレスリリース
ICCA:ICCA Statistics Report

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この記事の筆者

訪日ラボ編集部

訪日ラボ編集部

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